信用保証制度は銀行行動にどのような影響を与えるのか?
2022/03/31
文責:安田行宏
日本における公的な信用保証制度はその利用規模が世界的に見ても大規模であり、また、多くの企業が利用している点で特徴的である。信用保証制度は、銀行と企業の間における情報の非対称性による信用割当という問題の緩和に経済合理性が認めるが、銀行や企業のモラルハザードを招くといった懸念も指摘される。
Saito and Tsuruta (2018)は、世界金融危機時において日本の金融機関が保証付き貸出をどういった企業に対して行っていたのかを検証している。具体的には、2011年度末における銀行、信用金庫の対中小企業向け貸出における、保証債務残高比率と代位弁済比率の関係を分析した結果、潜在的にリスクの高い企業に対して同融資を行っていた可能性が高いことを実証的に示している。
Wilcox and Yasuda(2019)は、1998年に導入された特別保証制度の時期において、100%保証を通じた銀行貸出が増加する一方で、銀行のリスク・テイクを含意する結果を得ている。信用保証の増加は銀行にとってリスクの低下を意味することから、信用保証のつかないプロパー融資の増加による過度のリスクの高まりが懸念されることを論じている。
Kim and Yasuda(2018)は、緊急保証制度において、利益のキャッシュフローの差である会計発生高で測った利益の質が高い企業ほど、保証付き貸出の利用確率が高いことを実証的に確認している。保証付き貸出の貸出金利と利益の質は無相関である一方で、プロパー融資の貸出金利は低く設定されることも分かっており、信用保証協会と銀行の双方が会計情報を効果的に活用していることが示唆される結果と言える。一方で、Ono et al.(2013)は、緊急保証制度は企業に対して資金繰りの改善効果があった半面、企業パフォーマンスの事後的な改善がみられないことを実証的に確認している。
関連キーワード:信用保証制度、保証付き貸出、リスク・テイク、プロパー融資
Kim, H. and Yasuda, Y. (2019). Accounting Information Quality and Guaranteed Loans: Evidence from Japanese SMEs. Small Business Economics 53(4), 1033-1050.
Ono, A., Uesugi, I., and Y. Yasuda (2013) Are lending relationships beneficial or harmful for public credit guarantees? Evidence from Japan’s emergency credit guarantee program, Journal of Financial Stability 2, 151-167.
Saito K. and Tsuruta, D. (2018) “Information asymmetry in small and medium enterprise credit guarantee schemes: evidence from Japan.” Applied Economics, vol. 50, pp.2469-5485.
Wilcox, J.A., and Yasuda, Y. (2019). Government guarantees of loans to small businesses: Effects on banks’ risk-taking and on banks’ non-guaranteed lending. Journal of Financial Intermediation 37, 45-57.
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