市場基盤の金融システムと銀行基盤の金融システム(その2:分類の問題)

市場基盤の金融システムと銀行基盤の金融システム(その2:分類の問題)

2022/04/12

文責:篠沢義勝

 Beck and Levine (2002)は、外部から資金調達を必要とする産業の成長性を左右するものは、金融システムの種類ではなく、金融サービスの発展度合いや、法制度の充実度とする分析結果を示した。このような「銀行基盤の金融システム」対「市場基盤の金融システム」の比較研究の分野において、結論が出にくい背景について、以下の2点あげることができる。

1点目は、銀行基盤と市場基盤の区別の方法が多種であり、先行研究では統一されていないことである。例えば、Beck and Levine (2002)では(a)取引活動指標、(b)規模指標、(c)効率性指標 (d)総合指標の4つを用いて金融システムを分類し、サンプルの国々を点数化している。しかしながら、最近発表されたXu (2022)の論文では、Levineが提唱した4つの指標は、その後の研究論文ではあまり広く使われていないとしている。

2点目は、より現実的な変化として、銀行と市場との相違が不鮮明になり、両者は代替的というよりも、相互に補完的な存在になってきていることだ。歴史的な背景として、1980年代半ばから世界的に民営化・規制緩和政策が様々な産業で採用され始めた。銀行業務も例外ではなく、銀行ローンの原資は従来どおりに国内預金者から集めた資金に加えて、国際的な資本市場(例えばレポ市場)を通じて資金を調達することが可能になった。また、持株会社制度を利用して、銀行の子会社が証券業務を担うことも認められた。その回路を通じて、銀行は自行のローンを証券化し、債券市場で売ることも出来る。その結果、役割面で銀行と資本市場の住み分けが難しくなり、銀行と資本市場の関係は一層補完的な性格を帯びるようになった。

この点に関連したClaessens (2016)の実証研究によると、1999年以前は銀行基盤の金融システムの国であろうと、市場基盤の金融システムの国であろうと、その国の株式市場の発達が国民一人当たりのGDP成長を推進する要因として示されていた。しかし、2000~2007年をみると、金融システムの基盤の違いに関わらず、株式市場の発達が必ずしも経済成長につながっていないことをグラフで示している。Claessens (2016)は、銀行が株式市場を補完する度合いが進んだことにより、成長への寄与という観点から金融システムの基盤の相違が薄れたと説明している。

 

関連キーワード:銀行基盤の金融システム、市場基盤の金融システム

 

Beck, T., & Levine, R. (2002). Industry growth and capital allocation: does having a market-or bank-based system matter? Journal of financial economics, 64(2), 147-180.

Claessens, S (2016) “Regulation and structural change in financial systems”, proceedings of the ECB Forum on Central Banking, 26–28 June 2016. Available from Regulation and structural change in financial systems (europa.eu)

Xu, G. (2022). From financial structure to economic growth: Theory, evidence and challenges. Economic Notes, e12197.

 

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