市場基盤の金融システムと銀行基盤の金融システム(その3:比較優位性の視点)

市場基盤の金融システムと銀行基盤の金融システム(その3:比較優位性の視点)

2022/04/12

文責:篠沢義勝

 資金の移動の際に「情報取得費用」と「取引費用」が現実問題として生じる。現代の経済学や財務理論では、これらの費用を抑えることで、資金という貴重な資源が効率的に有望な産業に振り分けられ、経済成長につながると考える。このように、金融システム論の着地点の一つは、「金融の発展と経済成長」の関係性を探ることである。

 銀行基盤の金融システムと市場基盤の金融システムの比較論では、どちらの基盤システムが経済成長をより促す仕組みかを問うている。この比較分析では、金融機関や資本市場がどのように「情報と取引」の費用を軽減するのかに注目し、金融システムがどのように経済成長と関係するかを論じている(Levine,1997)。例えば情報取得を軸に、市場に対する銀行の比較優位性を考えると、銀行は貸し手として自行の資金がかかっているため、借り手を慎重に吟味し、継続的に監視することに長けている。また継続的な融資を通じて借り手との関係も強固になり、企業の段階的な発展に応じた融資を引き受けることも可能だ。したがって銀行が行う貸付は、有望な借り手を厳選しやすく、融資先企業の経営を継続的に見守るシステムであり、効率的な資金配分と企業成長に貢献できる。対照的に株式市場の投資家は、投資企業の株を短期に、しかも容易に売買でき、企業のディスクロジャーを通じて情報収集できるので、あえて投資家自身の費用や労力をかけて投資先の企業を注視しようという動機は弱いと言えよう。

 反対に銀行に対する市場の比較優位性として挙げられるのは、新技術への投資である。銀行の貸付では、信用力審査の過程で、儲かる情報の部分だけを銀行に取られる可能性もあるかもしれない。あるいは収益の大部分を銀行に支払うことになる。そのため、起業家は銀行からの借入より株式の上場を好む。新技術が実を結ぶまでは、特に新興企業において担保価値ある資産の保有は少ないことも多く、銀行は融資を躊躇する。さらに画期的な新技術は、新規性ゆえに収益性や将来性の判断が難しく、開発成功後でも直ちに貸付元本が返済されるとは限らない。

 この点において株式市場では多様な見方をする投資家の視点を通じて、新技術の将来性が株価として評価される(Allen and Gale, 1999)。さらに投資家は他の銘柄へ投資することにより、新技術への投資リスクを分散することが容易にできる。新技術開発が経済発展につながるという視点では、株式市場は銀行に勝る役割を担っていると言えよう。

 

関連キーワード:情報取得費用、取引費用

 

Allen, F., & Gale, D. (1999). Diversity of opinion and financing of new technologies. Journal of financial intermediation, 8(1-2), 68-89.

Levine, R. (1997). Financial development and economic growth: views and agenda. Journal of economic literature, 35(2), 688-726.

 

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