市場基盤の金融システムと銀行基盤の金融システム(その4:実証研究の動向)
2022/04/12
文責:篠沢義勝
2つの異なる基盤の金融システムと経済成長に関する比較実証研究で、コンセンサスが得られている結果をまとめる。第一に、経済発展の初期段階では金融システムの基盤の違いを問わず、金融システムの発展と経済成長は正比例する。経済が徐々に成熟化すると「金融システムと経済成長」の間に関係性が見られなくなる(Gambacorta, et al, 2014)。第二に、 経済が成熟している状況下では、「市場基盤の金融システム」と「経済成長」の間に正の関係が見いだせる(Boadi, et al 2019)。第三に、2007-8年の世界的な金融危機以降では、あるいは経済成長のある閾値を越えると、「金融システムの発展と経済成長」は負の関係になると指摘され始めた(Law and Singh, 2014) 。例えば、銀行基盤の金融システムが過剰な融資(貸付)に至ることにつながり、経済成長の足枷になっているとの報告(Arcand et al, 2015)や、最近では金融機関部門の拡張が、新技術型が牽引する経済成長の阻害要因になりうるという論文もある(Zhu, et al 2020)。そして第四に、Arcand et al (2015)では、民間部門への過度の貸付が、その国のGDPの100%を超えると経済成長に負の影響となる「過剰金融=too much finance」という現象を指摘している。この「銀行融資を中心とする過剰金融」という視点で、「市場基盤の金融システムの行き過ぎ」を指摘する報告もある(Epstein and Montecino,2016; Baker et al, 2018)。以上の実証分析の結果の流れは、当初は「金融システムの発展と経済成長が正比例する」という肯定的なものから、2007-8年の金融危機を契機に、最近では金融システムの基盤の相違を問わず負の側面が報告されている。
関連キーワード:金融システム、経済成長、過剰金融
Arcand, J. L., Berkes, E., & Panizza, U. (2015). Too much finance? Journal of Economic Growth, 20(2), 105-148.
Baker, A., Epstein, G., & Montecino, J. (2018). The UK’s finance curse? Costs and processes. SPERI report.
Boadi, I., Osarfo, D., & Boadi, P. (2019). Bank-based and market-based development and economic growth: An international investigation. Studies in Economics and Finance.
Epstein, Gerald, & Juan Antonio Montecino. (2016). “Overcharged: The High Cost of High Finance.” Roosevelt Institute.
Gambacorta, L., Yang, J., & Tsatsaronis, K. (2014). Financial structure and growth. BIS Quarterly Review March.
Law, S. H., & Singh, N. (2014). Does too much finance harm economic growth? Journal of Banking & Finance, 41, 36-44.
Zhu, X., Asimakopoulos, S., & Kim, J. (2020). Financial development and innovation-led growth: Is too much finance better? Journal of International Money and Finance, 100, 102083.
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