空売り規制の効果
2020/04/28
文責:柳樂 明伸
空売りは一般的には、価格発見に寄与し、市場の流動性を増加させる効果を持ち、価格のオーバープライスやバブルの発生を防ぐといわれている。したがって、空売りを規制するのであれば、流動性の低下や価格がファンダメンタルズと乖離する可能性がある。
現実にはリーマンショックや欧州債務危機の発生時には、ネイキッドな空売りの禁止や一時的な全銘柄の空売りの禁止、空売り比率の開示といった空売り規制が多くの国で導入されている。こうした空売りの規制の効果を検証したのがBeber and Pagano (2013)である。Beber and Pagano (2013)は、2007年から2009年の金融危機時の空売りの禁止の効果を30か国の株式市場を対象に検証している。全企業を対象にした空売り規制により流動性の低下や価格発見のスピードの低下といった空売り規制の負の効果を示している。また、空売り規制により、アメリカの金融機関の銘柄以外では、価格の下落を防ぐこともできていないことが確認されている。
Brunnermeier and Oehmke (2013)は危機時における金融機関に対する空売り制約は有効性があることを理論的に示している。金融機関は預金のような短期の資金調達と融資のような長期の資金運用という満期のミスマッチが生じている点が通常の企業と異なる点である。満期のミスマッチがあるため金融機関はレバレッジ制約に直面する。レバレッジが高くなると、短期の預金者が取り付け騒ぎを起こす可能性があるためである。金融機関がレバレッジ制約に直面すると、金融機関は資産を割り引いてでも早期償還し、負債を返済することによってレバレッジを低下させようとする。このレバレッジ制約があることによって、空売りが金融機関のファンダメンタルズを低下させる「捕食的空売り」が発生する均衡が存在することをBrunnermeier and Oehmke (2013)は示している。この場合、空売りを禁止することによって、金融機関のファンダメンタルズを低下させない均衡のみを生むことができる。他方で金融機関のレバレッジが低く、財務的に健全であるときには、空売りがあるとオーバープライスを修正できず、負の影響が発生することを主張している。こうした理論的な背景から、財務的に不健全が金融機関への空売り規制の有効性や空売りの効果を検証する実証分析においてはレバレッジや資金流動性といった要因をコントロールすることを示している。
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参考文献
Brunnermeier, Markus K., and Martin Oehmke. “Predatory short selling.” Review of Finance 18.6 (2013): 2153-2195.
Beber, A., & Pagano, M. (2013). Short‐selling bans around the world: Evidence from the 2007–09 crisis. The Journal of Finance, 68(1), 343-381.
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