Out-of-sampleにおけるリターンの予測可能性
2020/04/28
文責:柳樂 明伸
将来の株価が予測可能であるかに関し、様々な検証が行われ、多くの研究で将来のリターンを説明する変数が発見されている。Goyal and Welch (2008)はこうした予測可能性の再検証を行い、現在わかる情報を用いて推計した将来の株価の予測力、すなわち、Out-of-sampleにおいて予測可能性はないとしている。Goyal and Welch(2008)では、イールドスプレッドや配当利回り、長期利回り、PER、簿価時価比率などの予測変数とそれらを組み合わせた予測変数が将来リターンを予測するかを検証している。検証の結果、In-sampleでは説明力のある予測変数であっても、Out-of-sampleにおける予測力はほとんどの変数で見られず、過去の平均リターンを用いたほうが予測力があることを示している。
これに対して、Campbell and Thompson (2008)は予測変数と将来リターンの間に理論的に得られる符号関係の制約を課すことによってOut-of-sampleにおいても予測力を持つことを示している。Campbell and Thompson (2008)は理論的には予測変数とリターンの間に正の関係があるものでも、サンプルの期間が短いことなどから理論とは異なる負の関係がみられる場合があり、この影響がOut-of-sampleにおける予測力の低下につながっているとしている。そのため、理論とは異なる係数の符号が得られた場合、係数をゼロとする制約を課すことによって、Out-of-sampleにおいても予測可能性が存在することを示している。
これと同様のアプローチとしてFerreira and Santa-Clare (2011)はOut-of-sampleのリターンの予測可能性を示している。彼らはリターンの定義式からリターンがPERの成長率と利益の成長率、配当利回りの3つの要因に分解できることを示し、3つの要因の予測値から将来のリターンの予測を行うSOP(sum-of-the-parts)methodを提案している。 Ferreira and Santa-Clare (2011)では利益成長を過去20年の移動平均を用い、PERと配当利回りはランダムウォークにしたがうとして予測を行っている。これは将来リターンと配当利回りの関係式において、切片を過去20年の利益成長の移動平均とし、傾きを1と制約したときの関係式を表している。この制約を課した場合、Out-of-sampleにおいても有意な予測力が得られることを示している。
参考文献
Welch, I., and Goyal, A. (2007). A comprehensive look at the empirical performance of equity premium prediction. The Review of Financial Studies, 21(4), 1455-1508.
Campbell, J. Y., and Thompson, S. B. (2007). Predicting excess stock returns out of sample: Can anything beat the historical average? The Review of Financial Studies, 21(4), 1509-1531.
Ferreira, M. A., and Santa-Clara, P. (2011). Forecasting stock market returns: The sum of the parts is more than the whole. Journal of Financial Economics, 100(3), 514-537.
※本原稿の著作権を含む一切の権利は筆者が有します。