株主提案権制度の功罪
2020/04/28
文責:岩田 聖徳
米国のSEC規則14a-8は、一定の要件を満たす株主に対し、株主総会決議事項に関する当該株主の提案を会社の委任状勧誘資料に記載するよう求める権利を認めている(以下、株主提案権とする)。しかし近年、企業経営に対する株主の過度な介入を招くとの懸念から、SECは株主提案権のコストを高めるための制度の改訂を検討している。
先行研究は、株主提案が企業活動および企業価値に影響を与えているのか、与えているとすれば正負どちらの影響であるのかを分析してきた。企業価値を高める内容の提案が実現されないような場合、株主にヨリ強い権限を与えるのが望ましいと考えられる。逆に、価値破壊的な提案が棄却されないような場合、株主提案権には制限が加えられるべきだろう。
古くはKarpoff et al.(1996)が株主提案前後の株価の反応を分析し、株主提案による株主価値への影響は限定的であると結論づけている。また、そうした限定的な効果は、株主提案の決議が法的拘束力を持たないという米国の制度設計に起因するものと解釈している。しかし、Ertimur et al.(2010)によれば米国で過半数の賛成を得た提案のうち取締役会が実行に移した議案の割合は2003年時点で4割を超えており、株主提案の影響が限定的であるという見方はもはや適切でないと考えられる。同論文は、株主によるプレッシャーが大きいほど、取締役会が株主提案の内容を実行しやすいことを実証的に示している。
Gantchev and Giannetti(2019)は、株主提案による株主価値への影響が提案者の属性や提案の質によって異なり得る点に着目している。同論文は、活発な個人株主による提案が他の提案に比べ株式市場から評価されにくいことを示唆する結果を得ている。また、「質の悪い提案」として、(1)複数企業に対する均質的な提案、(2)提案の焦点が定まらない株主による提案、(3)流行りものの提案の3分類を特定・測定し、そうした提案が賛成を集めにくいこと、及び可決・採択された場合に負の異常リターンに結びつくことを明らかにしている。
関連キーワード:株主提案、コーポレート・ガバナンス、株主行動主義、議決権行使
Ertimur, Y., Ferri, F., & Stubben, S. R. (2010) Board of Directors’ Responsiveness to Shareholders: Evidence from Shareholder Proposals. Journal of Corporate Finance, 16(1), 53-72.
Gantchev, N., & Giannetti, M. (2019) The Costs and Benefits of Shareholder Democracy. SMU Cox School of Business Research Paper, (18-35), 18-15.
Karpoff, J. M., Malatesta, P. H., & Walkling, R. A. (1996) Corporate Governance and Shareholder Initiatives: Empirical Evidence. Journal of Financial Economics, 42(3), 365-395.
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