監査市場における競争度が監査の質に及ぼす影響

監査市場における競争度が監査の質に及ぼす影響

2020/04/28

文責:日下勇歩

 監査市場(監査サービスが取引される市場)における競争度は、監査の質に影響を与えることが議論されてきた。監査市場における競争度が低い場合、監査の質を向上させようとする会計事務所(監査事務所)のインセンティブが低下する可能性がある。その一方で、監査市場における競争度が高い場合、会計事務所が顧客企業からの報酬(監査サービスの提供に対する対価)を確保するために、顧客企業の意向に沿った監査が行われているという印象を企業外部者がもつ可能性がある。監査市場における競争度が監査の質に及ぼす影響は複雑であると予想されるが、実態の解明が求められる重要な論点の1つである。

 Francis et al.2013)は、42カ国におけるBig4DeloitteErnst & YoungKPMGPricewaterhouseCoopers)のマーケットシェアと監査の質との関係について分析している。この研究では、Big4全体のマーケットシェア(Big4による監査を受けている上場会社の割合)が大きいほど、監査の質の代理変数である利益の質が高いという結果を得ている。ただし、Big4内のマーケットシェアが均等に分割されているのではなく、その偏りが大きいほど(Big4ごとの顧客企業の売上高合計を計算し、それをもとに算出したハーフィンダール指数を用いている)、利益の質が低いという結果も得られている。これらの結果は、寡占のあり方によって、監査の質に及ぶ影響が異なる可能性があることを示唆している。

 Geng et al.2019)は、米国の会計事務所であるアーサー・アンダーセン(Arthur Andersen)会計事務所の解散により、監査市場における競争度が低下する程度が大きい地域においては、顧客企業の銀行借入コストが低下するという結果を得ている。なお、アーサー・アンダーセン会計事務所の解散により米国の監査市場における競争度が低下したことを示唆する証拠は、他の研究でも得られている(e. g., Feldman, 2006)。Geng et al.2019)の実証結果は、監査市場における競争度が高くなると、報酬の確保のために会計事務所が顧客企業の意向に沿った監査を行っているという印象を企業外部者がもつ可能性が高くなるため、知覚される監査の質が低下し、企業の資金調達コストが大きくなることを示唆している。

関連キーワード:監査市場、競争度

参考文献:

Feldman, E. R. (2006). A basic quantification of the competitive implications of the demise of Arthur Andersen. Review of Industrial Organization, 29(3), 193-212.

Francis, J. R., Michas, P. N., and Seavey, S. E. (2013). Does audit market concentration harm the quality of audited earnings? Evidence from audit markets in 42 countries. Contemporary Accounting Research, 30(1), 325-355.

Geng, H., Zhang, C., and Zhou, F. (2019). Does audit market competition matter to investors? Evidence from cost of bank financing. Available at SSRN.

 

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