共通株主所有がもたらす経済的影響
2020/04/28
文責:日下勇歩
近年、米国においては、共通株主所有(common ownership)に多くの関心が寄せられている。共通株主所有とは、機関投資家が同一産業における2社以上の企業に対して同時に多くの投資を行っている状態のことを指す。共通株主による所有が進むことにより、産業における健全な競争が阻害されることが懸念されている。その一方で、共通株主による所有が進むことで同一産業における企業間の協働が促されると議論されることもある。
Azar et al.(2018)は、米国の航空産業を対象として分析を行い、共通株主所有が増大するほど、航空券の価格が高くなることを示唆する証拠を得ている。具体的には、各航空ルート(出発地と到着地の組み合わせ)の市場でサービスを提供している航空会社の共通株主所有が増大するほど、当該ルートの航空券の価格が増加することを発見している。
Bindal(2019)は、企業間の製品の類似度に着目することで、Azar et al.(2018)の示唆を一般化している。具体的には、企業間の製品の類似度が高いほど価格競争が生じやすいことを踏まえ、共通株主所有の増大が価格に与える影響は、類似度の高い製品をもつ企業において大きくなるという仮説を提示している。当該研究では、企業間の製品の類似度が高いほど、価格の代理変数である企業の売上総利益率と共通株主による所有率との正の関係が強まるという証拠を発見している。
これらの研究に対して、He and Huang(2017)は、共通株主所有が増大するほど、同一産業の企業間における製品市場での協働が生じる可能性が増大するという仮説を提示している。当該研究では、共通株主所有が増大するほど、企業のマーケットシェアの成長率が高くなること、並びに、同一産業の企業間におけるジョイントベンチャー、戦略的提携、合併といった協働が行われる可能性が増大することを明らかにしている。
以上の先行研究の結果は、共通株主所有が、競争の減少もしくは協働の増大を引き起こすことを示唆している。これらの経済的影響がどのような状況下で生じうるのかについて、さらなる証拠の蓄積が期待される。
関連キーワード:共通株主所有、寡占、戦略的提携
参考文献:
Azar, J., Schmalz, M. C., and Tecu, I. (2018). Anticompetitive effects of common ownership. The Journal of Finance, 73(4), 1513-1565.
Bindal, S. (2019). When does common ownership matter? ASSA2020 Annual Meeting.
He, J. J., and Huang, J. (2017). Product market competition in a world of cross-ownership: Evidence from institutional blockholdings. The Review of Financial Studies, 30(8), 2674-2718.
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