企業のCSR活動の効果 ーCSR活動は偽善的行為か?ー
2019/01/24
文責:野口翔右
近年、企業が収益だけでなく社会的責任(CSR: corporate social responsibility)も問われる場面が増えてきている。実際にEU圏ではCSR活動に関するレポートの提出が企業に義務付けられており、日本でもCSR報告書を提出する企業が徐々に増えている。しかし、CSR活動そのものは企業の利益に直接結びつかないことから、株式会社は株主価値最大化を目指して行動するべきである、という従来のコーポレート・ガバナンス論の主張に相反しているように思える。それではなぜ企業はCSR活動を行うのだろうか。この疑問に対して示唆を与える学術的な研究を以下で紹介する。
CSR活動が間接的に株主価値最大化につながることを示した研究としてDeng et al.(2013)とLins et al.(2017)があげられる。Deng et al.(2013)は、株主以外のステークホルダー(従業員や顧客等)を利するような行動 を取っている企業ほど彼らからのサポートを得やすくなるため最終的には自社の利益につながり株主価値最大化を達成しやすくなるとことをM&Aの事例を用いて実証的に示した。一方Lins et al.(2017)は、CSR活動を信頼の獲得のための投資と位置付け、2008-2009年の世界金融危機のような企業や市場に対する信頼が揺らぐようなイベントが発生した時CSR活動を積極的に行っている企業ほど高いリターンを獲得していたことを示した。これらの研究はCSR活動が間接的に株主価値の向上に貢献することを示したものと解釈できる。
また、Ferrell et al.(2016)は、どのような特性を持つ企業がCSR活動を行う傾向にあるかを実証分析し、ガバナンスがよく行われている企業ほどCSR活動を行っていることを示した。この結果は、CSR活動をエージェンシー問題の一例として批判するような従来のコーポレート・ガバナンス論の主張を否定するものである。
以上の研究結果をまとめると、CSR活動は間接的に企業価値の向上に貢献し、よく規律付けされた企業ほどCSR活動を積極的に行うということになる。
関連キーワード:CSR,コーポレート・ガバナンス,エージェンシー問題
参考文献
Deng, X., Kang, J. K., and Low, B. S. 2013. Corporate social responsibility and stakeholder value maximization: Evidence from mergers. Journal of financial Economics, 110(1), 87-109.
Ferrell, A., Liang, H., and Renneboog, L. 2016. Socially responsible firms. Journal of Financial Economics, 122(3), 585-606.
Lins, K. V., Servaes, H., and Tamayo, A. 2017. Social capital, trust, and firm performance: The value of corporate social responsibility during the financial crisis. The Journal of Finance, 72(4), 1785-1824.
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