取締役会によるモニタリングは企業価値向上をもたらすか?

取締役会によるモニタリングは企業価値向上をもたらすか?

2019/01/24

文責:今仁裕輔

 取締役会には様々な役割が期待されるが、代表的なものとしてモニタリング機能とアドバイス機能が挙げられる。モニタリング機能とは、取締役会が株主の代理人として、株主価値の毀損につながるような経営者の裁量的行動を防ぐために監視する役割のことである。一方、アドバイス機能とは、企業の経営戦略上重要な意思決定について助言を行う役割のことである。

 Adams & Ferreira (2007)はこの二つの役割が代替的関係となりうる可能性を示した。経営者は取締役会に情報提供を行うことで、より有用なアドバイスを受けることができる。一方、経営者は情報提供を行うことで、取締役会からより厳しいモニタリングを受けることになる。結果として、経営者はモニタリング能力の高い取締役会に対して自社の情報提供を正確に行わず、より良いアドバイスを諦めるインセンティブが存在することになる。

 上記の議論から、モニタリング能力の向上は、モニタリング能力を必要とする企業にとっては企業価値の向上につながる一方、アドバイス能力を必要とする企業にとっては企業価値の毀損につながる可能性が示唆される。 Faleye, Hoitash, & Hoitash(2011)は上記の仮説を実証分析し、「多角化・大規模・高レバレッジ」という特性を持つ企業にとってはアドバイス能力が重要であり、こうした企業にとって取締役会のモニタリング能力の上昇は企業価値にマイナスの影響を与えることを示している。

 これらの分析の課題は、「アドバイス能力が必要な企業」の定義である。Coles, Daniel, & Naveen(2008)では、アドバイスが必要な企業の特性として「R&D投資額が多い企業」を用いて分析を行い、アドバイスの必要性に応じて社外取締役が企業価値に与える影響が異なることを示した。

 日本では2015年にコーポレートガバナンス・コードの施行が開始した。同コードは「企業価値の中長期的向上」「企業のリスクテイク促進」を目的として掲げ、各企業は取締役会の独立性向上が求められている。こうした取締役会改革が実を結ばない可能性を上記の先行研究は示しており、今後の実証研究・政策評価の蓄積が待たれる。

 

関連キーワード:コーポレートガバナンス、モニタリング、ボード・ストラクチャー、エージェンシー理論

 

参考文献

Adams, R. B., and Ferreira, D. 2007. A theory of friendly boards. The Journal of Finance 62(1), 217-250.

Coles, J. L., Daniel, N. D., and Naveen, L. 2008. Boards: Does one size fit all? Journal of Financial Economics 87(2), 329-356.

Faleye, O., Hoitash, R., and  Hoitash, U. 2011. The costs of intense board monitoring. Journal of Financial Economics 101(1), 160-181.

 

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