障害者雇用の推進-米国と日本の違いについて
2019/01/24
文責:今仁裕輔
CSR活動への関心が高まるにつれて、企業の障害者雇用への取組にもより注目が集まっている。障害者雇用は企業の自発的な活動といった側面もあるが、一方で障害者の雇用機会均等化観点から、多くの国で障害者雇用を促進するための法制度が定められている。
日本では1976年に導入された障害者雇用率制度により、障害者の雇用機会の確保が図られている。同制度は一定数以上の従業員を雇用している企業に、法定雇用率を上回る障害者の雇用が求められている。この制度の特徴は、法定雇用率を上回ることで、調整金の名目で補助金が支給される一方、法定雇用率を満たさない場合には納付金を納める必要があるという金銭的なインセンティブが付随する点にある。一方アメリカではAmericans with Disabilities Act(以下ADA)が同様の役割を担っている。この制度は障害者に対する雇用・解雇・待遇その他あらゆる面において差別を禁止している点に特徴がある。
Acemoglu & Angrist(2001)はアメリカのADAが障害者雇用促進の役割を果たしているかを、理論・実証の両面から分析している。ADAが施行開始されたのは1990年だが、施行以降2000年までに障害者の雇用率は低下傾向にあることが統計データから確認されていた。その背景には、ADAに伴う企業の負担コストが過度に大きいことが指摘されている。彼らの理論モデルでは、ADAによる同一賃金の保証が障害者雇用水準を下げうること、解雇したことで訴訟されることのコストが雇用を避けることで訴訟されるコストよりも大きい場合には障害者雇用水準を下げうることを指摘している。実証分析の結果、統計データが示す結果と同様に、ADAが障害者雇用率の低下を招いていることを示している。
一方Mori & Sakamoto(2018)は日本の障害者雇用率制度を対象に分析を行っている。障害者雇用率制度に対しては、経営者は納付金を支払うことで法定雇用率を下回る水準に留めることが許容されるためという批判も存在する。実証の結果、ADAとは異なり、同制度は障害者雇用の促進につながるという分析を示している。この結果は、同制度で定められている調整金・納付金などの金銭的インセンティブが機能していることを示唆している。また同分析は、障害者雇用により企業の収益性が低下する結果は確認されなかったことも報告している。
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参考文献
Acemoglu, D., and Angrist, J. D. 2001. Consequences of employment protection? The case of the Americans with Disabilities Act. Journal of Political Economy 109(5), 915–957.
Mori, Y., and Sakamoto, N. 2018. Economic consequences of employment quota system for disabled people: Evidence from a regression discontinuity design in Japan. Journal of the Japanese and International Economies 48, 1–14.
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