世界金融危機における国際資本フローの決定要因とは?
2019/01/24
文責:熊本方雄
Forbes and Warnock(2012)が指摘したように、国際資本フローには、グロスの資本流入が急増する“surge”、グロスの資本流入が急減する“stop”、資本流入が反転しグロスの資本流出が急増する“flight”、および、グロスの資本流出が減少する“retrenchment”の局面がある。世界金融危機では、“surge”局面における急激な資本流入の増大が、受入国の金融機関のリスク・テイキングを助長し、これが過度な信用拡大や資産価格の上昇をもたらした一方、 “stop”や “flight”局面における急激な資本流入の減少や資本流出の増大が、資産価格の低下、信用収縮を増幅した。
国際資本フローの決定要因の分析では、Calvo et al. (1993)によって定式化されたプッシュ要因(push factor)とプル要因(pull factor)による分析が多く行われている。プッシュ要因は、資本供給サイドの対外的な要因を意味し、これには、世界的なリスク回避度、先進国の経済成長率、金利、過剰流動性などが含まれる。一方、プッシュ要因は、資本需要サイドの国内的要因を意味し、これには、受入国の経済成長率、金利、財政収支、経常収支、対外債務、外貨準備などの循環的な要因に加え、貿易開放度、資本開放度、為替相場制度、金融発展の程度、政治的・制度的な質など構造的な要因が含まれる。
前掲のForbes and Warnock (2012)は、“stop”や“retrenchment”の局面では、プッシュ要因である世界的なリスク回避度が有意となる一方、国内要因は有意ではないことを示した。
同様に、Fratzscher (2012)は、Emerging Portfolio Fund Research(EPFR)の 2005年10月~2010年11月までの50か国の週次データに基づき、世界金融危機とその後の“retrenchment”において、リーマン・ブラザーズの破綻などのイベント、世界的な流動性、リスク回避度といったプッシュ要因が主要因であるが、その程度は国内機関の質、カントリー・リスク、国内マクロ経済の状況に依存し、国家間で効果が異なることを示した。
これらの結果は、危機の際にはプッシュ要因が重要となるが、危機の程度やその他の時期にはプル要因が重要であるというように、プッシュ要因とプル要因の相対的重要性が通時的に変化することを意味する。
関連キーワード:国際資本フロー、プッシュ要因、プル要因
参考文献
Calvo, G. A., Leiderman, L. and Reinhart, C. M. 1993. Capital inflows and real exchange rate appreciation in Latin America: The role of external factors. IMF Staff Papers 40(1), 108-151.
Forbes, K. J., and Warnock, F.E. 2012. Capital flow waves: surges, stops, flight, and retrenchment. Journal of International Economics 88(2), 235-251.
Fratzscher, M. 2012. Capital flows, push versus pull factors and the global financial crisis. Journal of International Economics 88(2), 341-356.
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