保険リテラシーは金融リテラシーと関連しているか?
2019/01/24
文責:顔 菊馨
「人生100年」時代を迎える日本では、個々人にとって、貯蓄や投資による資産運用を行うことは重要である。一方で、老後生活の資金を確保するため、年金保険や生命保険に加入することの重要性も高まってくる。これまでの日本国内の先行研究では、個人の生活設計に関連する金融リテラシーに注目するものは多いものの、保険リテラシーに関するものは比較的に少ない。そのうち、日本の生活者を対象とした代表的研究は2本あり、いずれもどのような要因が保険リテラシーに影響を与えるのか、保険リテラシーと金融リテラシーとは関連しているのかについて分析している。
佐々木(2017)は、年金リテラシーに注目し、男性で、若年層で、金融資産保有額が少なく、国民年金未納であるほど、年金リテラシーが低いことを示している。さらに、彼は年金リテラシーが低い人は金融リテラシーも低いことを明らかにした。ただし、従来の金融リテラシーに関する研究では、女性の方が金融リテラシーは低いことが指摘されていることに対して、同論文では、男性の方が年金リテラシーは低いことが示されている。
家森(2017)は、客観的な保険・金融リテラシー指標に加えて、保険・金融リテラシーに関する自己評価の質問も行っている。その結果、まず、リテラシーに関する自己評価については、保険知識に詳しいと自己評価している調査対象は1割弱にとどまり、大多数の人は自らの保険知識が欠如していると認識していることが示されている。また、金融リテラシーと保険リテラシーの自己評価には、正の相関があるが、若年層において、金融知識と保険知識の自己評価の間の差が大きく、保険知識の不足が目立っていること、さらに、客観的な金融リテラシーについては家族構成が影響していないのに対し、客観的な保険リテラシーは既婚か未婚かが影響していること、年収が大きいほど客観的な保険リテラシーも客観的な金融リテラシーも高いことが示されている。
この2本の研究は、日本人の生活設計のための保険・金融知識の不足を示しており、金融経済教育のみならず、保険知識を身につける必要性を明らかにしている。
関連キーワード:金融リテラシー、金融教育
参考文献
家森信善. (2017). わが国の生活者の金融・保険リテラシーと保険加入行動: 2016 年・生活保障に関する調査をもとに. 生命保険論集(金融・保険リテラシー特別号), 37-73.
佐々木一郎. (2017). 年金リテラシーと金融クイズ. 生命保険論集, (201), 111-131.
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