貨幣鋳造税
2021/05/26
貨幣鋳造税(シニョリッジ(seigniorage))には、「マネタリー・シニョリッジ」と「機会費用シニョリッジ」という2通りの測り方がある。
マネタリー・シニョリッジとは、政府、中央銀行が発行する補助貨幣(コイン)、紙幣から、その製造費用を控除した発行利益を意味する。そもそも、シニョリッジも語源は、中世の封建領主(フランス語でシニョール(seignior))が、額面より安い費用でコインを鋳造し、その差額を財政収入として享受していたことによっており、マネタリー・シニョリッジは、これに基づいたものである。
今、 期末における名目マネー・ストック(貨幣発行残高)を 、t期末における名目マネー・ストックをと表すと、t期中に新たに発行したマネー・ストックは、と表すことができる。ここで、貨幣を発行する費用をゼロと仮定し、t期の物価水準を と表せば、中央銀行は新たに発行した通貨を用いて、
単位の財を購入することができる。これが、貨幣鋳造税、または、通貨発行益である。これは、民間部門にとっては、中央銀行に移転した財の単位数を表し、あたかも中央銀行に徴税されたようにみなせるため貨幣鋳造税と呼ばれる。一方、中央銀行にとっては、貨幣を発行した収入を表すため通貨発行益と呼ばれる。
機会費用シニョリッジとは、中央銀行の金利収入に着目した考え方であり、中央銀行が無利息の負債である貨幣(銀行券)の発行と引き換えに保有する有利子の国債から発生する金利収入を意味する。すなわち、中央銀行が通貨発行の独占権を放棄し、歳入の不足分をすべて国債発行によって賄うならば(中央銀行が国債を引受けないならば)、追加的にいくら金利支払いの負担が増加するかを意味する。
参考文献
ケネス・S・ロゴフ(著)・村井章子(訳)(2017)『現金の呪い 紙幣をいつ廃止するか』日経BP
文責:経営管理研究科 熊本方雄
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