発言(Voice)と退出(Exit)を通じた企業統治

発言(Voice)と退出(Exit)を通じた企業統治

2020/04/28

文責:岩田 聖徳

 投資先企業の経営に不満を有する株主は、2つの手段を通じて経営陣に規律を与えることができる。第1に、彼らはエンゲージメント等を通じ直接経営陣に改善を要求できる。第2に、彼らは株式を売却し株価に影響を与えることで、経営陣に対し不満を伝えることができる。一般に前者のメカニズムは発言(Voice)、後者は退出(Exit)と表現される。近年では、これら2つの規律づけの手段を用いることができる機関投資家が行うVoiceの決定要因やその経済的帰結、および2つの選択肢間の関係に関する研究が進んでいる。

 Dimson et al.2015)は、社会責任投資(SRI)を行う機関投資家によるエンゲージメントの決定要因やその帰結に関する実証分析を行っている。同論文によれば、ガバナンスに問題のある企業やSRIファンドの保有比率が高い企業ほど、エンゲージメントの対象になりやすい。また同論文では、顧客からの評判リスクの高い企業や経営改善の余地が大きい企業に対するエンゲージメントほど、提案内容の実現に繋がりやすいことが確認されている。

 Li et al.2018)は、議決権行使の結果と株式売買の関係を分析している。投票結果から自身が少数派であると判明した株主は、多数派による決定が企業価値を棄損すると判断し売りに転じると予想すると考えられる。 Li et al.2018)は、決議結果とは反対の投票を行ったファンドが当該銘柄の買い増しを行わず、売却する傾向にあることを報告している。これは上の予想と整合する証拠である。

 また、Becht et al.2019)はアクティブ投資家の非公開データを入手し、ファンド内の担当部門によるモニタリングと、モニタリングの対象銘柄に係る株式取引の意思決定との関係を分析している。同論文によれば、より集中的なエンゲージメントが行われた銘柄や反対投票・棄権が行われた銘柄については買い増しが行われない(また、売却が行われる)傾向がある。この結果は、投資先企業へのエンゲージメントや議決権行使の結果に関する情報が、アクティブ投資家の株式取引の意思決定に反映されていることを示唆している。

 

関連キーワード:機関投資家、エンゲージメント、発言と退出、モニタリング

 

Becht, M., Franks, J. R., & Wagner, H. F. (2019). Corporate Governance Through Exit and Voice. European Corporate Governance Institute–Finance Working Paper, (633).

Dimson, E. Karakaş O., & Li, X. (2014). Active Ownership. Review of Financial Studies, 28(12), 3225-3268.

Li, S. Z., Maug, E. G., & Schwartz-Ziv, M. (2019). When Shareholders Disagree: Trading After Shareholder Meetings. European Corporate Governance Institute (ECGI)-Finance Working Paper, (594).

 

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