M&Aの効率性向上効果と競争制限効果について

M&Aの効率性向上効果と競争制限効果について

2022/03/31

文責:後藤 瑞貴

 合併(水平合併)の企業価値に対する効果は、合併によって経営のパフォーマンスが改善したことから生じる効率性向上効果と、買収により買収側企業の市場支配力が上昇したことで生じる競争制限効果に分けられる。

 前者の合併による効率性向上効果は、工場レベルのデータを用いたいくつかの先行研究で支持されている。例えばMaksimovic et al. (2011) は、企業の工場レベルのデータを使って合併後の企業のリストラクチャリングについて分析している。彼らは、合併後に売却されなかった工場については生産性が向上する一方で、合併後3年以内に売却した工場については生産性の向上が見られないことも明らかにした。これらの結果は、合併が被買収企業の経営の効率性改善に寄与しているという仮説と整合する証拠である。

 後者の合併による競争制限効果は、様々な産業における合併を扱った場合支持されないことが多いが、対象を特定の産業に絞った実証研究において支持されている。例えばMcCabe (2002)は、学術誌出版社の合併後に、その学術誌の価格の上昇を観察している。

 競争制限効果が効率性向上効果を相殺するという仮説は当てはまらない場合が多い。これは、M&Aが市場支配力を高めて、財やサービスの質を低下させることで、合併による経営効率化によるメリットを相殺されるという仮説である。航空運賃や病院の診察料、石油価格等で合併後に価格上昇(市場支配力の上昇)が観察されるものの、いずれも財やサービスの質の低下は見られない。Bonaime and Wang (2019) は、製薬業界の合併と薬価のデータを用いて製薬業界の合併が買収企業の薬価とイノベーションをどう変化させたのかを検証している。その結果、合併後に買収側と被買収側双方で合併を行っていない競合企業と比べて薬価上昇が観察された一方で、合併後に市場支配力を上昇させた企業がイノベーションに消極的になる傾向は見られず、合併後の競争の弱まり(競争制限効果)によって合併による研究開発面や生産面での規模の経済性(効率性向上効果)を相殺してはいない。

 

関連キーワード:効率性向上効果、競争制限効果

 

Bonaime, A., Y, E, Wang, 2019, Mergers, Product Price, and Innovation: Evidence from the Pharmaceutical Industry. ASSA 2019.

Maksimovic, V., Phillips, G., and Prabhala, N.R. 2011. Post-merger restructuring and the boundaries of the firm. Journal of Financial Economics 102, 317-343.

McCabe, M.J. 2002. Journal pricing and mergers: A portfolio approach, American Economic Review 92, 259-269.

 

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