年金評価を阻害する要因
2022/04/12
文責:西出陽子
長寿化により退職後の長期の生活を支える財源として、年金への関心が高まっている。具体的には、退職金を一時金で受け取るのか、年金として受け取るのかについて、例えば、Yaari(1965)は、一定の条件下で消費者は貯蓄をすべて年金にすべきと論じている。一方、Davidoff et al.(2005)は、死亡以外のリスクや遺贈動機などを考慮し、完全な年金化(全額を年金で受け取る)ではなく、部分的に年金で受け取ることが最適であると論じている。
近年では、年金として受け取ることが少ない、つまり年金受給が少ない理由について多くの研究が行われている。Reichling et al. (2015)、Laitner et al.(2018)、Ameriks et al. (2020)などが、長寿、健康および医療費などによる老後の予防的節約、遺贈動機、安価な長寿保険の存在などを挙げている。
Bütler and Teppa(2007)は、スイスで年金を支払いオプションの標準設定として提供している企業の方が、一括払いを標準設定としている会社よりも平均して年金で受け取る割合がはるかに高いことを示し、年金化率は選択の標準設定の影響を受けていることが示唆される。Brown et al. (2021)は、年金の決定に直面するエピソードを提示し、回答者に助言を求める実験を行うことで、年金評価を阻害する要因を検証している。これより、①年金の決定の複雑さが増すと、年金を評価する能力が低下する、②退職後に資産をどのように引き出すのかを合わせて考えるように誘導することで、年金を評価する能力が向上することを示している。
関連キーワード:年金、退職金
Ameriks, J., Briggs, J., Caplin, A., Shapiro, M. D., & Tonetti, C. (2020), “Long-term-care utility and late-in-life saving.”, Journal of Political Economy, 128(6), 2375-2451.
Brown, J. R., Kapteyn, A., Luttmer, E. F., Mitchell, O. S., & Samek, A. (2021), “Behavioral impediments to valuing annuities: complexity and choice bracketing.”, Review of Economics and Statistics, 103(3), 533-546.
Bütler, M., and Teppa, F. (2007), ”The choice between an annuity and a lump sum: Results from Swiss pension funds.” , Journal of Public Economics, 91(10), pp.1944-1966.
Davidoff, Thomas, Jeffrey R. Brown, and Peter A. Diamond (2005), “Annuities and Individual Welfare.” American Economic Review 95(5), pp. 1573–1590.
Laitner, J., Silverman, D., & Stolyarov, D. (2018), “The role of annuitized wealth in post-retirement behavior.”, American Economic Journal: Macroeconomics, 10(3), 71-117.
Reichling, Felix, and Kent Smetters (2015), “Optimal Annuitization with Stochastic Mortality and Correlated Medical Costs.”, American Economic Review 105(11), pp. 3273–3320.
Yaari, Menahem (1965), “Uncertain Lifetime, Life Insurance, and the Theory of the Consumer.” Review of Economic Studies 32(2), pp.137–150.
※本原稿の著作権を含む一切の権利は筆者が有します。