市場基盤の金融システムと銀行基盤の金融システム(その1:決定要因)

市場基盤の金融システムと銀行基盤の金融システム(その1:決定要因)

2022/04/12

文責:篠沢義勝

 金融システムについて様々な定義が可能であるが、学術領域では「金融システムを市場基盤型と銀行基盤型に区分」して比較検証している。このような区分けを軸にして、(1)経済成長、(2)技術革新、(3)金融危機のリスクの観点から金融システムの役割や重要度を明らかにする研究テーマである。

市場基盤の金融システムと銀行基盤の金融システムの最も明白な相違点は、資金が提供者から受給者へ移動する際、主に銀行が仲介するか、それとも市場、例えば株式市場や債券市場を通して行われるかの違いにある。例えば、Gambacorta et al (2014) では「民間部門の資本金のうち銀行借入の占める割合」を銀行基盤の指標として、 先進国群と新興国群に分けてグラフにまとめている。彼らのグラフから、先進国の中でも米国は前出の銀行基盤の指標が20%程度である一方で、スペインやオーストリア、ニュージーランドの銀行基盤の指数が50%以上となることが分かる。同様の違いは新興国群でも報告されている。より最近の論文であるBats and Houben (2020) では、一国の「非金融部門の借入額のなかで銀行借入が占める金額」と「同国の株式市場の時価総額」の比率により、ドイツや日本を銀行基盤の金融システム、米国を市場基盤の金融システムと分類している。

では国によって金融システムの基盤に違いがあれば、何が基盤の決定要素になるだろうか。例を挙げて説明すると、電力・ガス会社の収益は、他業種に比べれば必需品であるため、景気動向の影響を受けず、安定的なキャッシュフローが見込める産業セクターといえる。それゆえに同セクターへ貸し付ける銀行や、電力やガス会社の発行する社債を買う投資家からすれば、安心して元本や利息の回収ができる。他方、公共事業セクターと対照的な業種としては、製薬業界があげられる。新薬の開発には膨大な年月と費用を要し、債権者への定期的な利払いは望めない場合も多い。また、開発の成果も確約されず、元本自体の返済さえ保証されない場合もある。このような事業には、株式型の投資形態が適している。Gambacorta et al (2014) の分析結果では、例えば鉱山採掘セクターや情報伝達セクターで銀行借入を避ける傾向が実証的に確認されている。

上記の分析の考え方は「金融システムと経済成長」との関係に触れており、「主要産業は往々にして国によって異なり、また産業ごとの成長性も違う点で、金融システムの基盤が市場型か銀行型かの相違は、間接的にそれぞれの国の経済成長を左右する要因になる」というものであり、比較金融システム論の中心課題となるものである。

 

関連キーワード:金融システム、経済成長、技術革新

 

Bats, J. V., & Houben, A. C. (2020). Bank-based versus market-based financing: implications for systemic risk. Journal of Banking & Finance, 114, 105776.

Gambacorta, L., Yang, J., & Tsatsaronis, K. (2014). Financial structure and growth. BIS Quarterly Review March.

 

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