サステナブル投資は株主価値に資するのか?:証拠と批判

サステナブル投資は株主価値に資するのか?:証拠と批判

2024/05/30

文責:藤谷涼佑

企業によるサステナブル投資によって株主価値が改善するのかという問いは、研究者と実務家の双方にとって重要な検討課題である。一方では、企業の評判を改善することを通じて、より質の高い経営資源へのアクセスができたり、法的リスクを軽減したりすることが期待される。他方で、もしサステナブル投資が株主価値に資さない場合にはそれは非効率な資源配分になりうる。いずれの視点が支持されるのかが検証されてきたが、決定的な結論には至っていない。

Khan et al. (2016、以下KSY) はサステナビリティトピックのマテリアリティ(materiality)という概念に注目し、企業のサステナブル投資と株主価値との関係を検証している。マテリアリティとは、サステナビリティに関するトピックの重要性を指す。例えば、炭素排出量を減少させるというトピックのマテリアリティは、石油産業と情報産業では異なるはずである。KSYはSASBが公表するマテリアリティマップを利用して、産業・企業ごとの各トピックのマテリアリティを測定している。

カレンダータイムポートフォリオと企業レベルのパネルデータを用いた分析により、マテリアリティの高いサステナビリティ投資と株式リターンとの相関を検証した。分析の結果、マテリアリティが高いトピックについては、ESGスコアに基づいた投資戦略によって、年次のアルファリターンおよび異常リターンで3~8%ポイントほどアウトパフォームすることが明らかになった。また、マテリアリティの低いトピックについては同様の関係が観察されなかった。KSYは、サステナブル投資の評価においてそのマテリアリティを考慮する必要があると結論付けている。

ところが、Berchicci and King (2022a) は、認識論的不確実性(epistemic uncertainty)を考慮すると、KSYの発見には頑健性が認められないことを指摘している。認識論的不確実性とは、検証の過程で研究者によって設定されるデータ生成プロセスに関する仮定が読者に明らかにされないことで、その過程の選択によって結果が変動しうる可能性を読者が評価できない状況を指す。認識論的不確実性が大きいほど、報告されている結果が研究者にとって都合の良いものだけが選択されている可能性を排除できなくなってしまう。彼らはBerchicci and King (2022b) の手法に従って、データセットの構築方法やモデルの特定化などを変更すると、必ずしもKSYの結果が再現されるわけではないことを明らかにした。この結果を踏まえ、Berchicci and King (2022a) はKSYの発見が統計的な見せかけ(statistical artifact)であると批判している。

 

関連キーワード:サステナブル投資、マテリアリティ、認識論的不確実性

 

参考文献

Khan, M., Serafeim, G. and Yoon, A., 2016. Corporate sustainability: First evidence on materiality. The Accounting Review, 91(6), 1697-1724.

Berchicci, L., and King, A. A., 2022a. Corporate sustainability: A model uncertainty analysis of materiality. Journal of Financial Reporting, 7(2), 43-74.

Berchicci, L. and King, A.A., 2022b. Building knowledge by mapping model uncertainty in six studies of social and financial performance. Strategic Management Journal, 43(7), 1319-1346.

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