Brexitの経済的効果
2020/04/28
文責:藤谷涼佑
2016年6月23日に、英国が欧州連合 (EU) から離脱 (Brexit) すべきかを問う国民投票が行われた。その結果、投票者の51.9%がBrexitを支持し、欧州連合からの離脱が決定した。その後、英国議会における離脱案の取りまとめが試みられ、2020年1月末に英国は欧州連合から離脱した。ただし、通商に関連する取り決めについて2020年末までに合意が取れなければ、取り決めがないまま離脱を行うという「合意なき離脱 (no-deal Brexit)」が強行される可能性が依然として存在する。もしも合意無き離脱が強行されるようであれば英国およびEUの経済に大きな影響があると考えられ、さらなる経済的な不確実性を生む原因となっている。Brexitが英国経済に与える影響について、喧しい議論が行われている。
学術研究では、Brexitの国民投票を外生的な政治・政策的リスクの増加として捉えて、このようなリスクが企業行動や株価に与える影響が分析されている。予言的なエッセイとして、Cumming and Zahra (2016) は、Brexitが英国企業の事業環境に与える影響を俯瞰的に議論している。また、Bloom et al. (2019) は、英国企業の経営者へのサーベイ調査をもとに、Brexitの企業の事業環境への影響を明らかにしている。第1に、Brexitに関する国民投票の結果を受けて、長期的な不確実性が高まったと認識している企業が増加していることを明らかにしている。第2に、英国企業は、2016年の国民投票からの3年間にかけて、企業の投資が11%減少すると予想していることを明らかにした。第3に、Brexitによって、英国の生産性が2-5%減少すると予想していることを発見した。これらの結果は、Brexitが英国企業の事業環境を悪化させていると、経営者が認識していることを示唆している。
Hill et al. (2019) は、企業のBrexitに対するエクスポージャーを検証している。Brexitが英国企業の事業環境に影響を与えることは明らかになっている。しかし、その影響の異質性は先験的には明らかではない。第1に、国際化している企業は、Brexitの影響が小さいことを明らかにしている。これは、国際化していると為替変動の影響を受けにくくなるためであると考えられる。第2に、成長企業ほどBrexitの影響が大きいことが明らかになった。第3に、産業別に観察すると、事業内容がB to Cである企業と金融業界でBrexitの影響が大きいことを明らかにした。
関連キーワード:経済政策の不確実性、不確実性
Bloom, N., Bunn, P., Chen, S., Mizen, P., Smietanka, P., & Thwaites, G. (2019). The impact of Brexit on UK firms. NBER Working Paper Series (w26218).
Cumming, Douglas J., & Shaker A. Zahra. (2016). International Business and Entrepreneurship Implications of Brexit, British Journal of Management 27, 687–692.
Hill, Paula, Adriana Korczak, & Piotr Korczak. (2019). Political Uncertainty Exposure of Individual Companies: The Case of the Brexit Referendum, Journal of Banking and Finance 100, 58-76.
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