暗号通貨市場における価格操作
2020/04/28
文責:岩田 聖徳
CoinMarketCapによれば、ビットコインの時価総額は2017年半ばから急上昇し、2020年1月末時点で19兆円超(2017年1月末における時価総額の10倍程度)に達している。このように暗号通貨市場が急成長する中、先行研究は当該市場における価格操作の実態を分析し、利用者保護の脆弱性について警鐘を鳴らしてきた。
Gandal et al.(2018)は、2013年に起きたビットコイン価格の急騰が、当時ビットコインの取引所であったマウントゴックス社で起きたBotによる偽装取引を通じた価格操作によるものであることを示す証拠を得ている。同論文は、当該Botによるビットコインの買い増しが行われた期間において、当該コインの取引量や価格が上昇していたことを実証的に示している。
Griffin and Shams(2019)は、ビットコインの取引所であるBitfinexがドルによる裏打ちの無いTether(米ドルにペッグされた暗号通貨)を発行しビットコインを買い増していたことを示す証拠を得ている。このことは、Tetherがビットコインとフィアット通貨の媒介物として投資家の需要に基づき(demand-driven)発行されるというだけでなく、ビットコイン価格を上昇させることでロングポジションから得られる利益を増やす等といった取引所の私的便益のために(supply-driven)裁量的に発行されていたことを示唆する。
Li et al.(2019)は、風説の流布(Pump and Dump schemes、以下P&Dとする)の存在を検証している。ここでのP&Dは、Telegram等のSNSを通じて結成されたグループが特定の暗号通貨の価格を意図的に吊り上げた後に売り抜ける行為を指す。同論文は、P&Dグループによる価格の吊り上げ直後にリターン・取引量・ボラティリティが増大し、その後元の水準に戻ることを示している。また、Bittrex取引所がP&Dの禁止を発表した後の期間において、当該取引所のコインの価格および取引量が有意に増加したことを示している。
上記の証拠は観点こそ異なれ、いずれも暗号通貨市場における価格操作に対する規制の必要性を支持するものであるといえよう。
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Gandal, N., Hamrick, J. T., Moore, T., & Oberman, T. (2018). Price Manipulation in the Bitcoin Ecosystem. Journal of Monetary Economics, 95, 86-96.
Griffin, J. M. and Shams, A. (2019). Is Bitcoin Really Un-Tethered?. Available at SSRN 3195066.
Li, T., Shin, D., & Wang, B. (2019). Cryptocurrency Pump-and-Dump Schemes. Available at SSRN 3267041.
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