経済政策の不確実性をどのように測定するのか?

経済政策の不確実性をどのように測定するのか?

2020/04/28

文責:藤谷 涼佑

  政治的なイベントは経済に関係する政府の政策に関する不確実性 (EPU, Economic Policy Uncertainty) が変化することを通じて、企業行動に様々な影響を与えると考えられる。EPUの例として、英国国民にEU残留の賛否を問うた国民投票や米国大統領選挙でドナルド・トランプ氏が大統領に選出されたことなどが挙げられる。これらのイベントは経済的な影響が大きいと議論されてきたにもかかわらず、その程度を測定する手段が限られてきた。

 Baker et al. (2016, BBD) はテキストマイニングを用いてEPUを測定する指標を開発した。彼らは、米国における10の新聞の記事のテキスト分析し、EPUに関する記事の数をもとにEPUを定義している。具体的には、economic” か “economy” という単語、uncertainty” か “uncertain” という単語、Congress”, “deficit”, “Federal Reserve”, “legislation”, “regulation”, か “White House” のうちひとつ以上の単語が含まれている記事をEPUに関する記事と定義する。つづいて、このEPUに関する記事の数を各新聞の記事の合計でデフレートし、その値を標準偏差で標準化し、各月での平均値を求める。最後に、分析期間にかけてのEPU指標の平均値が100になるよう調整を加えてEPU指標を定義している。

 彼らのEPU指標は、VIXVolatility Index, 恐怖指数)といったマクロ経済レベルの不確実性の指標や、米国における年次決算資料(Form 10-K)に含まれるリスク情報の量で定義される企業レベルの不確実性の指標と相関していることが明らかになっている。これはEPU指標がマクロ経済の不確実性を測定できているという考えと整合する証拠である。

 さらに20194月現在では24ヶ国とそれらのEPU指標を統合したグローバルEPU指標が開発され、公開されている (http://www.policyuncertainty.com/index.html)。日本においてもEPU指標が開発されている。日本のEPU指標について解説しているArbatli et al. (2019) と伊藤 (2017) によれば、彼らはBBD (2016) の指標開発のプロセスを、「経済」か「景気」という単語、「不確実」、「不確定」、「不透明」か「不安」という単語、「政策」、「税」、「歳出」、「規制」、「日本銀行」、「日銀」、「財政」といった単語のうちひとつ以上の単語 (p. 10, 伊藤 2017) が、含まれている記事をEPUに関する記事として定義している。

 

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参考文献

Arbatli, E. C., Davis, S. J., Ito, A., Miake, N., & Saito, I. (2019). Policy uncertainty in Japan. Available at SSRN.

Baker, S. R., Bloom, N., & Davis, S. J. (2016). Measuring economic policy uncertainty. The Quarterly Journal of Economics, 131(4), 1593-1636.

伊藤新. (2017). わが国における政策の不確実性RIETI Policy Discussion Paper Series, 17-P-019.

 

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