ベータの分解
2020/04/28
文責:柳樂 明伸
1960年代以降の実証研究では、小型株効果やバリュー株効果のようにCAPMが成立しないことが示されている。Campbell and Vuolteenaho (2004)(以下,CV)は、リターンを2つの要因に分解することによって、この説明を試みている。株価は将来の期待キャッシュフローを割り引いた値で決定される。そのため、キャッシュフローに関するポジティブなニュースや割引率の低下はリターンの増加につながる。しかし、これらの効果は将来の投資機会には異なる影響を持つ。キャッシュフローのニュースは将来の投資機会に影響を与えないのに対して、割引率の低下は将来の投資機会を増加させる。そこで、CVではCAPMのベータをキャッシュフローに関するベータ(”bad” beta)と割引率に関するベータ(”good” beta)の2つの要因に分解している。長期投資家は、割引率の変化は将来の投資機会のヘッジになるため、”good”ベータの方がリスクが低いと考える。そのため、リスク回避的な長期投資家は”bad”ベータが高い株式にはより高いリスクプレミアムを求め、”good”ベータが高い株式には相対的に低いプレミアムを求める。CVは、この分解によりCAPMの当てはまりの悪さを説明できるとしている。例えば、バリュー効果について、グロース株は,”good”ベータが高いことから,同じCAPMのベータの水準でも相対的にリスクプレミアムが低いため、低リターンになる。これに対して、バリュー株は”bad”ベータが高いことによって高いリスクプレミアムが求められる。そのため、CAPMのベータで考えると同じ水準のリスクであっても、求めるリスクプレミアムが異なっていることからバリュー株とグロース株の間にリターンの差が生じる。CVはVARモデルを使って、マーケットリターンの変動のうち、キャッシュフローの変化による変動と割引率の変動を算出し、グロース株とバリュー株がどちらと共変動しているかを検証している。検証の結果、CAPMが成り立たないといわれている1963年以降のサンプルでは、バリュー株や小型株は”bad”ベータが大きく、グロース株の”good”ベータが大きくなっていることを示している。
Campbell et al (2010)は、キャッシュフローのニュースとしてROE,割引率のニュースとしてPERを代理変数として用いて、同様の検証を行っている。検証の結果、バリュー株ほど”bad”ベータが高いというCVと同様の結果を得ている。
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参考文献
Campbell, J. Y., and Vuolteenaho, T. (2004). Bad beta, good beta. American Economic Review, 94(5), 1249-1275.
Campbell, J. Y., Polk, C., and Vuolteenaho, T. (2009). Growth or glamour? Fundamentals and systematic risk in stock returns. The Review of Financial Studies, 23(1), 305-344.
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