経営者の信念が経営上の意思決定に与える影響

経営者の信念が経営上の意思決定に与える影響

2020/04/28

文責:堀江 優希

 将来業績に関する見込みをどのように形成するかは、経営者の信念(belief)に左右され、経営上の意思決定にも影響を与えうる。合理的な期待を有する経営者が存在する企業では、将来の業績について認知できており、資源が最適に配分されると予想される。しかし、経営者の信念にはバイアスがかかっており、そのような信念は将来業績に関して客観的に測定される見込みとは整合的でないことを示唆する研究も存在する(e.g., Malmendier and Tate 2005; Ben-David et al. 2013)。では、バイアスがかかった経営者による信念は、将来業績に関して客観的に測定される見込みからどの程度乖離しているのであろうか。また、バイアスのかかった経営者の信念は、企業価値にどのような影響をもたらすのであろうか。

 Malmendier and Tate2005)は、自社の業績を過信する経営者ほど、設備投資に対するキャッシュ・フロー感応度が高く、内部資金が乏しい場合には、自身が望む設備投資水準に達するほどの株式を発行しないため、設備投資を抑制する傾向にあることを明らかにしている。彼らの結果は、経営者の信念が経営上の意思決定に影響を与えることを示唆している。

 Barrero2019)は、米国の経営者は、自社の業績についてよりボラティリティが低くより持続性が高いと信じる傾向にあることを、サーベイ調査により明らかにしている。さらに彼は、構造推定を用いて、自社の業績を過信する経営者は、収益性の変化に過大な反応を示し、資源を過大に投入することによってボラティリティを縮小させる傾向にあり、結果として企業価値は減少し、消費者の効用は低下することを明らかにしている。Barrero2019)の分析結果は、経営者による過信が収益性の変化に対する経営者の過大反応と結びついていることを明らかにしている点で、経営者の信念が経営上の意思決定に与える影響に関する研究に対して示唆を与えている。

 経営者の信念にバイアスがかかっている場合に、合理的な経営者と比べて、経営上の意思決定やマクロ経済にどのような影響の違いが生じるのかについて、今後の研究が待たれる。

関連キーワード:経営者の信念、過信、企業価値

Barrero, J. M. (2019) “The Micro and Macro of Managerial Beliefs,” Available at SSRN.

Malmendier, U. and Tate, G. (2005) “CEO Overconfidence and Corporate Investment,” The Journal of Finance, 60, pp. 2661-2700.

Ben-David, I., Graham, J. R. and Harvey, C. R. (2013) “Managerial Miscalibration,” Quarterly Journal of Economics, 128(4), pp. 1547-1584.

 

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