私的チャネルを通じた情報開示が市場に与える影響

私的チャネルを通じた情報開示が市場に与える影響

2020/04/28

文責:堀江 優希

 企業が行うIR活動の中には、特定の機関投資家やアナリスト向けの説明会など、業績に関する情報を私的に提供(以下、私的開示)する機会が含まれる。企業は、私的開示により、流動性の向上や資本コストの低下という便益を享受しうる。しかし、市場の公正性という観点からは、私的開示を通じた一般投資家から機関投資家への富の移転や、説明会の開催者である証券会社が有する利益相反の問題は、社会厚生に悪影響を及ぼしうる。

 Green et al.2014)は、カンファレンスコールがアナリストにとっての情報優位性を高めているか否かを分析している。彼らは、機関投資家向けのカンファレンスコールを主催した証券会社の方が、そうでない証券会社と比べて、株式推奨の上方修正の変化と正のリターンとの相関が高いことを明らかにしている。しかし、カンファレンスコールで提供される情報には重要情報とそれ以外のモザイク情報(重要情報には該当しないが、それを組み合わせることによって株価に影響を与えうる情報)が混在している。そのため、モザイク情報や、当該情報が提供されるチャネルを、投資家およびアナリストがどのように利用しているかについては明らかにされていない。

 Bradley et al.2019)は、証券会社が主催する特定の機関投資家向けの説明会(Non-Deal roadshows: NDR)が市場に与える影響を分析している。NDRでは、重要情報が公的に開示されるカンファレンスコールなどと異なり、モザイク情報が私的に提供されることがある。彼らは、(1NDRの開催後において機関投資家は一般投資家よりも高いリターンを獲得しており、(2NDRを主催した証券会社による業績予想は保守的であり(企業が予想値を達成しやすく)、かつ、同証券会社による株式推奨は楽観的であることを明らかにしている。

 市場の公正性の確保というRegulation Fair DisclosureFD)の目的に照らせば、機関投資家がNDRにより入手したモザイク情報を活用し一般投資家よりも高い情報優位性を確保することや、経営者の歓心を得るためにバイアスのかかったアナリスト予想を公表することには問題がないとは言い切れない。重要情報に該当しないモザイク情報の私的開示をどこまで許容すべきか、今後の研究が待たれる。

関連キーワード:私的開示、レギュレーション・フェア・ディスクロージャー

Daniel B., Russell J. and Jared W. (2019) “Non-Deal Roadshows, Investor Welfare, and Analyst Conflicts of Interest,” Available at SSRN.

Green, T. C., Jame, R., Markov, S. and Subasi, M. (2014) “Access to Management and the Informativeness of Analyst Research, ” Journal of Financial Economics, 114, pp. 239-255.

 

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