政策不確実性がアナリスト予想に与える影響

政策不確実性がアナリスト予想に与える影響

2020/04/28

文責:堀江 優希

 企業の利益に関するアナリストの予想(以下、アナリスト予想)は株式市場において重要な役割を果たしていると考えられている。たとえば、投資家は、株式を売買する際、アナリストによる株式推奨だけでなくアナリスト予想に基づいて意思決定を行っていることが明らかにされている。これまでの研究では、企業特有の要因、アナリストの特性、および企業と投資家の間の情報の非対称性といったミクロ要因がアナリスト予想の正確度に与える影響が分析されてきた。一方、アナリスト予想に影響を与えることが予想される、マクロ経済的な要因に着目した研究は少ない(Biswas 2019)。

 Loh and Stulz2018)は、金融危機、不景気、および政策不確実性(Economic Policy UncertaintyEPU)に焦点を当て、不況時におけるアナリスト予想が市場に与える影響を分析している。同研究では、不況時におけるリスク単位あたりのアナリスト予想の正確度は好況時に比べて向上しており、また、アナリスト予想の修正に対する株価反応は不況時に増大することが示されている。Loh and Stulz2018)の結果は、不況時において、アナリストはより正確に予想するようになり、また、投資家はアナリストに対する信用度を高めているという仮説と整合する証拠である。

 Biswas2019)は、EPUがアナリスト予想の正確度およびばらつきに与える影響を分析している。Biswas2019)では、EPUが高い場合に、アナリストはEPUが企業業績に与える影響を正確に予想できずアナリスト予想の誤差が増大することが示唆されている。また、同研究では、EPUが高くなると企業業績に対する個々のアナリストの見解が合致しにくくなり、アナリスト予想のばらつきは増大するという結果を得ている。

 このように、マクロ要因がアナリスト予想にどのような影響を与え、また、市場が同予想に対してどのように反応しているかについては、必ずしも十分な証拠が蓄積されているわけではない。投資家はEPUが高い場合におけるアナリスト予想および株式推奨をディスカウントしているか、また、EPUが高い場合におけるアナリスト予想の正確度は投資家に対してどのような影響を与えるかについて、今後の研究が待たれる。

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Biswas R. (2019) “Does Economic Policy Uncertainty Affect Analyst Forecast Accuracy?,” Working Paper, SSRN.

Loh, R. K., and Stulz, R. M. (2018) “Is Sell-Side Research More Valuable in Bad Times?,” The Journal of Finance, 73(3), pp. 959-1013.

 

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