CSRは企業にどのような影響をもたらすのか?
2019/01/24
文責:安田行宏
近年、CSR(Corporate Social Responsibility)活動への関心が特に高まっている。環境保全への世界的な関心の高まりや、機関投資家のCSR活動への評価の高まりなどを背景に、株主のみならず社会に対して企業はどのように向き合うべきかが改めて問われているのである。
CSR活動に対する見方は大きく二つに分けることができる。一つは、企業はもっぱら株主にのみ目を向けるべきであり、CSR活動はいわゆるエージェンシー・コストを発生させるものであるとする見方である。言い換えると、Berle and Means (1932)に始まる株主価値最大化を図る活動ではなく、むしろCSR活動はエージェンシー問題の結果であるという考え方に立つ(Agency viewという)。もう一つは、CSR活動は株主価値最大化と両立し得るものであり、広くステークホールダーを対象に経済的価値を生むという見方である(Shareholder viewという)。これらいずれかの見方がより説得的かは実証的課題であり、数多くの研究が近年データ利用可能性の向上と相まって蓄積されている。
El Ghoul et al. (2012) は、当該分野の実証研究において標準的な指標として用いられるKLD社が作成・公表しているCSRスコアを用いて、CSR活動が資本市場においてどのように評価されているのかを実証的に検証している。1992年から2007年までの米国企業を対象に大規模な総計12915のサンプル数を用いて検証を行っている。この論文の分析結果としてCSRスコアが高い(CSR活動の評価が高い)ほど総じて資本コストが低いことを実証的に示すとともに、CSRの活動内容別の分析を併せて行っている。例えば、従業員との関係、環境政策、製品の品質に関するCSR活動は資本コストを低下させる一方で、タバコや原発関連の企業についてはその限りではないことを実証的に示している。
Ferrell (2016)は、1999年から2011年の期間を対象に約25000社におよぶグローバルデータに基づき、Agency viewとShareholder viewについて包括的に検証している。Ferrell (2016)によると、CSR活動とエージェンシー問題と関連するという実証結果は得られず(つまり、Agency viewではなく)、CSR活動はいわゆる優れたガバナンスと関連する(Shareholder viewを支持する)という見方を支持する実証結果を得ている。
関連キーワード:CSR、エージェンシー・コスト、エージェンシー問題
参考文献
El Ghoul, S., Guedhami, O., Kwok. C.C.Y., and Mishra, D.R. 2011. Does corporate social responsibility affect the cost of capital? Journal of Banking and Finance 35, 2388-2406.
Ferrell, A., Liang, H., and Renneboog, L. 2016. Socially responsible firms. Journal of Financial Economics 122, 585-606.
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