企業金融における担保の役割
2019/01/24
文責:野口翔右
企業金融の研究では、担保の役割は、主として情報の非対称性を解消することにあると考えられている。ここでの情報の非対称性とは、契約の前段階において借手の返済可能性が高いかどうかを貸手が把握できない逆選択問題と、契約後に借手が経営努力を怠る可能性があるというモラルハザード問題の二つに分けられる。以下では、これらの理論が実際の借入契約における担保の利用の実態と整合的であるかを分析した研究を紹介する。
Jimenez et al.(2006)は、どのような企業が担保を用いる傾向にあるかをスペインのデータを用い分析した。その結果、企業の質が事前にわからない場合、質の高い企業ほど多くの担保を用いていることを示した。この結果は、担保によって質の高い企業を選別でき、逆選択問題が解消されていることを示唆している。
Cerqueiro et al.(2016)は、担保の存在が銀行行動にどのような影響を及ぼすのかについて、スウェーデンの法改正を用いて分析をした。その結果、担保価値の減少は貸出金利を上昇させ、また銀行によるモニタリングの頻度を減少させることを示した。この結果は、担保が借入契約後のモラルハザードを抑制し、また、銀行のモニタリングを促進することを示しており、既存の理論と整合的である。
しかし、担保が情報の非対称性の緩和手段であるとして、実態として中小企業は担保となる資産を用意すること自体が困難であり、仮に有望な投資案件を有していても資金制約に直面する可能性がある。このような非効率的な状況を克服するためにリレーションシップ型貸出が注目されている。しかし、Voordeckers and Steijvers(2006)は、銀行との関係が深いほど担保が要求されやすくなることを示しており、これは、借手が他の銀行からの借入が出来ないようにメインバンクが予め多くの担保を確保しようとすることを意味する。つまり、リレーションシップ型貸出の長所としての情報の非対称性の緩和が、短所としてのホールドアップ問題に打ち消された結果として担保が要求されやすくなるのである。
日本でも2003年から金融庁によってリレーションシップ型貸出が推奨されているが、これらの効果について担保およびそれに伴う資金制約性という側面からも検討されなければならないことが示唆される。
関連キーワード:担保、企業金融、情報の非対称性、逆選択問題、モラルハザード
参考文献
Cerqueiro, G., Ongena, S., and Roszbach, K. 2016. Collateralization, bank loan rates, and monitoring. The Journal of Finance, 71(3), 1295-1322.
Jimenez, G., Salas, V., and Saurina, J. 2006. Determinants of collateral. Journal of financial economics, 81(2), 255-281.
Voordeckers, W., and Steijvers, T. 2006. Business collateral and personal commitments in SME lending. Journal of Banking & Finance, 30(11), 3067-3086.
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