上場は企業の会計情報の質にどのような影響を与えるのか?

上場は企業の会計情報の質にどのような影響を与えるのか?

2019/01/24

文責:安田行宏

 企業が上場する理由するメリットには、資金調達の選択肢の拡大、流動性の向上など様々な理由が考えられる。一方で、上場することで、制度的にも企業は一層の情報開示を求められることになる。企業が上場しているか否かによって、いわゆる会計情報の質に対してどのような影響を与えるのかは学術的な課題である。会計情報の質の測り方はいろいろと考えられる。例えば、代表的なものとして、キャッシュフローと利益の差として定義される会計発生高(アクルーアル)が小さいほど質が高いと評価される。

 上場していることが、会計情報の質に与える影響については、二つの仮説が知られている。一つ目は需要(demand)仮説である。この仮説によれば、上場企業の方がディスクロージャーに積極的であり、訴訟リスクを回避するためにも、また、資本コストを低下させるためにも、会計情報の質を改善するインセンティブが高いと考える。こうした仮説を支持する実証結果を得ているのが、Hope et al. (2013)などである。Hope et al. (2013) は、米国企業の大規模サンプルを分析対象とし、上場企業の方が、非上場企業よりも利益の質が高いことを実証的に確認している。

 もう一つの仮説が機会主義的行動(opportunistic behavior)仮説である。上場企業の方が投資家から一定水準以上の業績をあげることに対してのプレッシャーが強いため、会計発生高を高めに評価するインセンティブが、非上場の企業よりも高いと考える仮説である。この仮説を支持する実証結果を得ているのが、Givoly et al. (2010)である。Givoly et al. (2010) は、社債の公募発行をしている非上場企業と、社債の公募発行している上場企業を比較することで、上記のいずれの仮説が成立するかを検証している。いずれの場合も公募社債の発行を伴うため公開企業であるが、株式上場の有無で分割して分析している点に特徴がある。Givoly et al. (2010) の実証結果によると、社債発行をしているが、株式は非上場企業の方が、上場企業よりも、アクルーアルなどで測った会計情報の質が高いことから、機会主義的行動が支持されると論じている。
 
 いずれの仮説がより説得的かについては、実証的課題として検証の蓄積が望まれている。

 

関連キーワード:会計情報の質、アクルーアル、需要仮説、機会主義的行動仮説

 

参考文献

Givoly, D, Hayn, C.K., and Kaz, S.P. 2010. Does public ownership of equity improve earnings quality? The Accounting Review 85 (1), 195-225.

Hope, O-K, Thomas, W.B., and Vyas D. 2013 Financial reporting quality of U.S. private and public firms. The Accounting Review 88(5), 1715-1742.

 

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