銀行の流動性創出をどのように測るか?

銀行の流動性創出をどのように測るか?

2019/01/24

文責:安田行宏

 銀行は非流動的な貸付を企業などに行う一方で流動的な預金を預金者に供給しており、流動性の創出(Liquidity Creation)を行う経済主体である。この銀行の流動性創出機能は、例えば金融危機時において企業の資金繰り問題に対して、一時的に大量に供給するなどして破たんを阻止するなど重要な役割を果たす。しかしながら、この銀行の流動性の創出を具体的に測ることは基本的に極めて難しい。この難題に対して、Berger and Bouwman (2009)は、銀行の財務データに基づき流動性創出を測る指標を構築した。

 基本的な指標構築のアイデアは以下の通りである。まず、銀行の貸借対照表の全ての項目に対して、銀行活動が流動性を創出する程度に応じて、流動的(liquid)準流動的(Semi-liquid)、非流動的(illiquid)に分類する。これはオンバランスシート上のみならず、デリバティブローンコミットメントを反映するオフバランスシート上の項目に対しても同様に分類を行う。次に、流動性創出の程度に応じて、ウェイト付けを行う。例えば、企業への貸付(資産項目)は非流動的な資産であり、流動性を企業に創出しているのでプラスの0.5となる。同様に、負債項目の要求払い預金も預金者に対して流動性を共有しているのでウェイトはプラスの0.5となる。他方で、有価証券の保有(資産項目)は、流動性の資産であるが、貸付を行う機会を失うことで流動性の創出をむしろ阻害しているので、ウェイトはマイナスの0.5といった具合である。最後に、これらのウェイトで項目を乗じて合計した金額を流動性創出の指標として算出する。

 Berger and Bouwman (2009)によると、1984年から2008年にかけての流動性指標は基本的に増大傾向にあり、特にオフバランスシートを通じた流動性創出が大きいことを示している。また、銀行の自己資本の水準と流動性創出の関係については、大銀行においては、規模の大きな銀行ほど流動性を創出していることを確認している。他方で、小銀行では、規模が小さな銀行の方が流動性創出を行っていることを確認している。Berger and Sedunov (2017)によると、銀行の流動性創出と実質的な経済成長(GDP)と正の相関関係があることを発見している。また、オンバランスの流動性創出指標は特に規模の小さな銀行にとって重要であり、他方で、オフバランスシートのそれは大銀行にとって重要であることを実証的に確認している。

 

関連キーワード:流動性創出、デリバティブ、ローンコミットメント、オフバランスシート

 

参考文献

Berger, N.A., and Bouwman, C.H.S., 2016. Bank liquidity creation. Review of Financial Studies 22, 3779-3837.

Berger, N.A., and Sedunov, J. 2017. Bank liquidity creation and real economic output, Journal of Banking and Finance 81, 1-19.

 

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