銀行間競争と銀行行動
2019/01/24
文責:野口翔右
従来の金融論は主に銀行と借入企業の関係性に注目しており、銀行間の関係にはあまり注目してこなかった。しかし、1970年以降の金融機関に関する規制緩和に伴い、銀行は市場競争原理に晒されるようになり、今日でも貸出金利や預金金利などさまざまな側面で銀行は他の銀行と競争している。以下では、銀行間競争と銀行行動の関係に焦点をあてた研究を紹介する。
まず、銀行間競争が銀行行動に与える影響を分析した研究では、Boot and Thakor(2000)は、銀行行動を貸出技術の選択としてみなし、銀行間競争が激しくなると銀行はリレーションシップ型の貸出を行う傾向にあることを示した。これは、価格(この場合、利子率)競争が激しくなると同質財を提供することによる損失が大きくなるため、差別化を行えるリレーションシップ型の貸出が重要視されるというロジックに基づいている。
一方、銀行行動が銀行間競争に与える影響を分析した研究では、Hauswald and Marquez(2006)は、銀行行動を情報獲得のための投資水準としてみなし、情報獲得のための投資を行うほどスクリーニングの精度が上がる結果、競合する銀行はより大きな逆選択の脅威に直面すること、すなわち情報獲得のための投資は、銀行間競争を弱めることを示した。この結果は、獲得された情報がソフト情報であるとき、銀行間競争が激しいほどリレーションシップ型貸出が重視されるというBoot and Thakor(2000)のモデルと整合的である。
一方、上述の研究の前に提示されたInformation仮説によれば、市場において支配力の高い銀行ほど、すなわち銀行間競争の程度が低いほど、借手を横取りされるリスクが小さいため、時間やコストのかかるリレーションシップ型貸出を行いやすいとされる。これは、Boot and Thakor(2000)とは逆の帰結を意味する。これを踏まえてLove and Martínez Pería(2014)は53か国のデータを用いて、どちらの仮説が実態に即しているかを実証分析した。分析の結果、競争度と資金調達可能性の間にある負の相関が、資本市場の透明性によって弱まっていることから、Information仮説は棄却されると推論している。
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参考文献
Boot, A. W., and Thakor, A. V. 2000. Can relationship banking survive competition?. The journal of Finance, 55(2), 679-713.
Hauswald, R., and Marquez, R. 2006. Competition and strategic information acquisition in credit markets. The Review of Financial Studies, 19(3), 967-1000.
Love, I., and Martínez Pería, M. S. 2014. How bank competition affects firms’ access to finance. The World Bank Economic Review, 29(3), 413-448.
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