通貨代替は実質為替相場にどのような影響を与えるか?

通貨代替は実質為替相場にどのような影響を与えるか?

2019/01/24

文責:熊本方雄

 ある国でその国の法定通貨以外の通貨が支払手段として用いられる現象は通貨代替(currency substitution)と呼ばれ、マクロ経済が不安定である国、とりわけ過去において高いインフレ率を経験した発展途上国や体制移行国などで観察される。

 これまで、通貨代替が国内経済にどのような影響を与えるかについて、多くの研究が行われてきたが、その論点の一つに、通貨代替が実質為替相場にどのような影響を与えるかという点がある。

 Calvo and Rodriguez (1977)は、貿易財と非貿易財の2財からなり、債券が存在しない経済を想定し、自国の貨幣成長率の上昇は、実質為替相場の減価をもたらすことを示した。自国の貨幣成長率の上昇により、自国のインフレ率が上昇するとき、消費者は外国通貨の保有比率を増大させようとする。このとき、外国通貨が唯一の国際的に取引される資産であるため、外国通貨の保有を増大させるには、貿易収支が黒字になる必要があり、その結果、実質為替相場は減価する。

 一方、Liviatan (1981)は、同様のモデルを用いて、自国の貨幣成長率の上昇は実質為替相場の増価をもたらすことを示した。
これらの結果の違いは、貨幣需要関数の定式化にある。Calvo and Rodriguez (1977)では、自国通貨と外国通貨の間に代替性が存在することが想定されているのに対し、Liviatan (1981)では、自国通貨と外国通貨は、自国通貨と外国通貨からなる「複合通貨(composite money)」の一定割合として、保有されることが想定されている。したがって、Liviatan (1981)では、貨幣成長率の上昇(インフレ率の上昇)により、複合通貨に対する需要が減少し、このため貿易収支が赤字となるように実質為替相場が増価するのである。

 Végh (2013)は、これらの議論を整理し、貨幣成長率の上昇が実質為替相場に与える影響は、自国通貨と外国通貨間の代替の弾力性と、消費と流動性サービス間の代替の弾力性の相対的な大きさに依存することを示し、前者の方が大きければ、Liviatan (1981)のように貨幣成長率の上昇は、実質為替相場の増価をもたらし、一方、後者が大きければ、Calvo and Rodriguez、 (1977)のように、実質為替相場の減価をもたらすことを示した。

 

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参考文献
Calvo, G. A., and Rodrigues, C.A. 1977. A model of exchange rate determination under currency substitution and rational expectations. Journal of Political Economy 85(3), 617-626.
Liviatan, N. 1981. Monetary expansion and real exchange rate dynamics. Journal of Political Economy 89(6), 1218-1227.
Végh, C. A. 2013. Open Economy Macroeconomics in Developing Countries, Cambridge, Mass.: MIT Press.

 

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