通貨代替は名目為替相場にどのような影響を与えるか?

通貨代替は名目為替相場にどのような影響を与えるか?

2019/01/24

文責:熊本方雄

 ある国でその国の法定通貨以外の通貨が支払手段として用いられる現象は通貨代替(currency substitution)と呼ばれ、マクロ経済が不安定である国、とりわけ過去において高いインフレ率を経験した発展途上国や体制移行国などで観察される。

 これまで、通貨代替が国内経済にどのような影響を与えるかについて、多くの研究が行われてきたが、その論点の一つに、通貨代替が名目為替相場にどのような影響を与えるかという点がある。

 Kareken and Wallace(1981)は世代重複モデルを用いて、自国通貨と外国通貨が完全代替の場合、為替相場に非決定性の問題が生じることを示した。これは、名目為替相場が購買力平価式で決定されるとき、自国通貨と外国通貨が不完全代替であれば、自国と外国の物価水準が、自国と外国の貨幣市場の均衡式から内生的に決まるため、名目為替相場は一意に定まるが、完全代替の下では、自国と外国の貨幣市場が統合されるため、自国と外国の物価水準が一意に定まらないことに起因している。

 同様に、Isaac (1989)はポートフォリオ・バランス・モデルを用いて、自国通貨と外国通貨の代替性が高まるほど、名目為替相場のオーバーシューティングとアンダーシューティングの程度が通貨代替の程度に依存することを示している。

 また、Mahdavi and Kazemi (1996)は、cash-in-advanceモデルを用いて、代替性が高まるほど、名目為替相場はファンダメンタルズの変化に対してより感応的となり、ボラティリティが高まること、および、不完全代替の下でも、為替相場がファンダメンタルズとは無関係の要因によって変化するという意味において非決定的となることを示した。

 以上より、通貨代替が進展すると、貨幣需要関数が不安定化するため、金融政策の変更といったわずかな経済ショックが自国通貨と外国通貨間の需要のシフトを生じさせ、これが名目為替相場のボラティリティを高める可能性があることがわかる。

 

関連キーワード:通貨代替、ポートフォリオ・バランス・モデル、cash-in-advanceモデル

参考文献
Isaac, A.G. 1989. Exchange rate volatility and currency substitution. Journal of International Money and Finance 8(2), 277-284.
Kareken, J., and Wallace, N. 1981. On the indeterminacy of equilibrium exchange rates.Quarterly Journal of Economics 96(2), 207-222.
Mahdavi, M., and Kazemi, H.B. 1996. Indeterminacy and volatility of exchange rates under imperfect currency substitution. Economic Inquiry, 34(1), 168-181.

 

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