マーシャル=ラーナー条件
2021/07/27
マーシャル=ラーナー条件
弾力性アプローチとは、為替相場と貿易収支の関係を考察するためのアプローチの一つであり、為替相場の変化が輸出入の変化を通じて、貿易収支を変化させるという考え方に基づいたものである。例えば、為替相場が自国通貨安・外国通貨高になると、輸出量が増大し、輸入量が減少する一方、輸入財価格は上昇する。このとき、貿易収支が改善するためには、輸出量の増大効果と輸入量の減少効果が、輸入財価格の上昇効果を上回る必要がある。このための条件をマーシャル=ラーナー(Marshall-Lerner)条件と呼ぶ。
設定
自国と外国の二国からなる経済において、自国と外国の物価水準が一定であると想定し、さらに、簡単化のため、自国の物価水準を、外国の物価水準をとしたとき、とする。また、初期時点において、輸出額と輸入額は等しく、貿易収支は均衡していたとする。すなわち、輸出数量を、輸入数量を、自国通貨建て為替相場とすると、自国通貨建て輸出額は、自国通貨建て輸入額はと書けることから、が成立していたと想定する。さらに、の仮定より、これは、と表せる。最後に、輸出数量は実質為替相場の増加関数(実質為替相場が減価すると(値が大きくなると)、自国財が相対的に安く、外国財が相対的に高くなるため、輸出数量は増大する)、一方、輸入数量は実質為替相場の減少関数と想定する。
解説
貿易収支は、輸出額と輸入額の差であるため、自国通貨建て貿易収支は、
(1)
と表される。但し、(+)、(-)は、それぞれ、増加関数、減少関数であることを表す。ここで、の仮定を用いると、(1)式は、
(2)
となる。自国通貨が自国通貨安・外国通貨高となったとき(Eの値が上昇したとき)、貿易収支が改善(TBの値が増大)するためには、>0が成立する必要があり、は、
(3)
と計算される。但し、最後の等式の導出には、の仮定を用いている。
ここで、右辺第1項は、輸出量の変化率を為替相場変化率で除したもので、これは、為替相場が1%自国通貨安・外国通貨高となったとき、輸出量が何%増加するかを表し、輸出の価格弾力性と呼ばれる。同様に、右辺第3項は、輸出量の変化率を為替相場変化率で除したものにマイナスの符号をつけたもので、これは、為替相場が1%自国通貨安・外国通貨高となったとき、輸入量が何%減少するかを表し、輸入の価格弾力性と呼ばれる。
したがって、(3)式より、>0が成立するためには、
(4)
が成立する必要がある。(4)式をマーシャル=ラーナー条件と呼ぶ。すなわち、為替相場が自国通貨安・外国通貨高(自国通貨高・外国通貨安)になったとき、貿易収支が改善(悪化)するためには、「輸出量の価格弾力性+輸入量の価格弾力性>1」という条件が成立する必要がある。
先述の通り、為替相場が自国通貨安・外国通貨高になると、輸出量が増大し、輸入量が減少する一方、輸入財価格は上昇する。このとき、貿易収支が改善するためには、輸出量の増大効果と輸入量の減少効果が、輸入財価格の上昇効果を上回る必要がある。マーシャル=ラーナー条件は、これを数式で表現したものである。すなわち、(4)式の右辺は為替相場が1%自国通貨安・外国通貨高になったとき輸入財価格が1%上昇することを意味し、左辺は為替相場が1%自国通貨安・外国通貨高になったときの輸出量の増加率と輸入量の減少率の和となっている。したがって、(4)式は、輸出量の増大効果と輸入量の減少効果が、輸入財価格の上昇効果を上回ることを意味する。
参考文献
橋本優子・小川英治・熊本方雄(2019)『国際金融論をつかむ[新版]』有斐閣
文責:経営管理研究科 熊本方雄
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