貨幣乗数

貨幣乗数

2021/05/26

貨幣乗数とは、マネタリー・ベースの変化に対し、マネー・ストックがその何倍変化するかを表す値を意味する。通貨乗数、信用乗数とも呼ばれる。

今、中央銀行当座預金はすべて預金準備から構成されていると想定する。このとき、預金準備をR、預金通貨をD、支払準備率をrと表すと、R=rDが成立する。また、マネタリー・ベースをMB、現金通貨をCと表すと、マネタリー・ベースは現金通貨と預金準備(=中央銀行当座預金)の和なので、

(1)

と表される。

一方、マネー・ストックをと表すと、マネー・ストックは現金通貨と預金通貨の和なので、

(2)

となる。ここで、上の2つの式を整理すると、

平均保有残高               (3)

を得る。上式は、マネタリー・ベースが追加的に1単位増加すると、マネー・ストックはその倍増加することを意味し、を貨幣乗数と呼ぶ。0<r<1より、貨幣乗数は1より大きいことがわかる。このように、1単位のマネタリー・ベースの増加に対し、その何倍(>1)もマネー・ストックが増大するのは、信用創造の仕組みが働くことによる。

貨幣乗数が、通時的に一定の値をとるのであれば、中央銀行は、目標とするマネー・ストックMの水準から、その目標と整合的なマネタリー・ベースMBの水準を逆算し、公開市場操作等の金融政策を行えばよい。

このように、「物価の安定」という金融政策の最終目標を達成するため、マネー・ストックを中間目標に位置付け、マネタリー・ベース(中央銀行当座預金残高)を操作する政策運営方式は、一般に「マネタリー・ターゲティング」と呼ばれる。

しかしながら、実際には、貨幣乗数は不安定であり、この結果、マネタリー・ベースとマネー・ストックの間に安定的な関係を想定できない状況となっている。図1は、マネー・ストックをM1、および、M3で測ったときの貨幣乗数の推移をしている。図より、貨幣乗数は不安定で、とりわけ、近年、低下していることがわかる。これは、現金-預金比率が不安定であることに依っている。

このため、近年、多くの中央銀行では、短期金利を中間目標とした「金利ターゲティング」と呼ばれる金融政策が行われている。

図1.貨幣乗数の推移

(出所)日本銀行より筆者作成