伸縮価格マネタリー・モデル

伸縮価格マネタリー・モデル

2021/05/26

 伸縮価格マネタリー・モデルとは、アセット・アプローチと呼ばれる為替相場決定理論の一つであり、資産市場の中でも特に貨幣市場に着目するモデルである。マネタリー・モデルには、一般物価水準の伸縮性を想定し、常に購買力平価式が成立することを想定した伸縮的マネタリー・モデルと一般物価水準の短期的な硬直性を考慮し、長期的にのみ購買力平価式が成立することを想定した硬直的マネタリー・モデルとがある。伸縮的マネタリー・モデルは、Frenkel(1976)、Mussa(1976)、Bilson(1978)、Hodrick(1978)らによって定式化され、購買力平価式における一般物価水準を貨幣市場の均衡式から内生化するモデルである。すなわち、伸縮価格マネタリー・モデルは、貨幣市場の均衡が崩れたとき、物価水準が伸縮的に調整されることで、貨幣市場の均衡が回復し、その物価水準が購買慮期平価式を通じて為替相場に影響を与えることを想定したモデルである。このため、伸縮価格マネタリー・モデルは、長期的な為替相場の水準を決定するモデルといえる。

 

設定

 以下では、自国と外国とからなる開放2国間経済において、物価水準は伸縮的であると想定する。これは、短期的にも購買力平価が成立することを意味する。また、分析を簡単化するため、自国と外国における貨幣需要関数のパラメータが等しいことを想定する。これは、後述する通り、自国と外国の貨幣需要の所得弾力性、および、貨幣需要の金利半弾力性は等しいことを意味する。

 

解説

 まず、物価水準が伸縮的であることから、常に購買力平価式

(1)

が成立する。但し、は自国の物価水準、は外国の物価水準は自国通貨建て直物為替相場である。

ここで、実質貨幣需要は、実質所得の増加関数、名目金利の減少関数であると想定すれば、自国の貨幣市場の均衡式は、

(2)

と表される。但し、は名目マネー・ストック、は実質貨幣需要関数、は実質所得、は名目金利である。同様に、外国における貨幣市場の均衡式は、 

(3)

と表される。(2)、(3)式を、一般物価水準について解き、これを、購買力平価式(1)式に代入すると、

(4)

を得る。(4)式は、為替相場は通貨の需給関係によって決定されることを意味している。

 例えば、他の事情を一定としたもとで、自国のマネー・ストックが増加すると、為替相場は、マネー・ストックの増加率と同率減価(自国通貨安・外国通貨高)することがわかる。これは、自国のマネー・ストックが増加すると貨幣市場において超過供給が発生し、これを解消するため、自国の物価水準がマネー・ストックの増加率と同率上昇し、これが購買力平価を通じ、為替相場を減価させるためである。

 次に、他の事情を一定としたもとで、自国の実質所得が増大すると、為替レートは増価(自国通貨高・外国通貨安)することがわかる。これは、実質所得が増大すると、取引動機に基づいた貨幣需要が増大するため、貨幣市場において超過需要が発生し、これを解消するため、自国の物価水準が下落し、これが、購買力平価を通じ、為替相場を増価させるためである。

 最後に、他の事情を一定としたもとで、自国の名目金利が上昇すると、為替レートは減価することがわかる。これは、名目金利が上昇すると、投機的動機に基づいた貨幣需要が減少するため、貨幣市場において超過供給が発生し、これを解消するため、自国の物価水準が上昇し、これが購買力平価を通じ、為替レートを減価させるためである。

 同様に外国における名目マネー・ストック、実質所得、および、名目金利の変化が為替相場に与える影響を分析できる。

 

 次に、定量的な分析を可能とするため、貨幣需要関数を特定化し、明示的な為替相場決定式を導出する。また、その際、為替相場決定式を対数表現する。

 まず、購買力平価式(1)式の両辺の自然対数をとると、

(5)

と表せる。但し、小文字は大文字(実数値)の自然対数値を表す。

ここで、自国の実質貨幣需要関数を、

(6)

と特定化する。として定義され、所得が1%増加したとき、実質貨幣需要が何%増加するかを表す貨幣需要の所得弾力性である。一方、は、として定義され、金利が1%ポイント上昇したとき、実質貨幣需要が何%減少するかを表す貨幣需要の金利半弾力性である。(6)式を(2)式に代入し、両辺の自然対数をとると、

(7)

を得る。同様に、外国の貨幣市場均衡式は、

(8)

と表される。但し、ここで、自国と外国の貨幣需要の所得弾力性、および、貨幣需要の金利半弾力性は等しいという仮定を用いている。(7)、(8)式を一般物価水準について解き、これらを、購買力平価式(5)式に代入すると、

(9)

を得る。(9)式は、為替相場は自国と外国の名目マネー・ストックの差、実質所得の差、および名目金利差によって決定されることを意味し、伸縮的マネタリー・モデルと呼ばれる。

 (9)式の解釈は以下の通りである。

 まず、他の事情を一定としたもとで、自国のマネー・ストックが1%増加すると、為替相場も1%減価することがわかる。これは、自国のマネー・ストックが1%増加すると貨幣市場を均衡させるように自国の物価水準が1%し、これが購買力平価を通じ、為替相場を1%減価させるためである。

 次に、他の事情を一定としたもとで、自国の実質所得が1%増大すると、為替レートは%増価することがわかる。これは、実質所得が1%増大すると、実質貨幣需要が%増大するため、貨幣市場を均衡させるように自国の物価水準が%低下し、これが購買力平価を通じ、為替相場を%減価させるためである。

 最後に、他の事情を一定としたもとで、自国の名目金利が1%ポイント上昇すると、為替相場は%減価することがわかる。これは、名目金利が1%ポイント上昇すると、実質貨幣需要が%減少するため、貨幣市場を均衡させるように自国の物価水準%が上昇し、これが購買力平価を通じ、為替相場を%減価させるためである。

 

Bilson、 J. F. O. (1978) “Rational Expectations and the Exchange rate”, in Frankel、 J. A. and H. G. Johnson (eds.), The Economics of Exchange Rates、 Addison-Wesley Reading、 MA.

Frenkel、 J. A. (1976) “A Monetary Approach to the Exchange Rate: Doctrinal Aspects and Empirical Evidence”, Scandinavian Journal of Economics、 Vol.78(2), pp.200-224.

Hodrick、 R. J. (1978) “An Empirical Analysis of the Monetary Approach to the Determination of the Exchange Rate”, in Frankel、 J. A. and H. G. Johnson (eds.), The Economics of Exchange Rates、 Addison-Wesley Reading、 MA.

Mussa、 M. J. (1976) “The Exchange Rate、 the Balance of Payments and Monetary and Fiscal Policy under a Regime of Controlled Floating”, Scandinavian Journal of Economics, Vol.78(2), pp.229- 248.