大災害のリスクはパズルを解決するか?
― レアディザスターモデル ―
2020/04/28
文責:平岩 拓也
消費CAPMにおいて現在主流となっているモデルは、大きく分けて3つのタイプに分けられるが、ここではその1つであるレアディザスターモデルについて紹介する。
レアディザスターモデルは、戦争や恐慌、自然災害など、わずかな確率だが大きなショックをもたらす事象により、消費が急落する可能性を考慮した資産価格モデルである。Rietz (1988)によりエクイティプレミアムパズルを解決する方策として提案されていたが、近年のBarro (2006)やGabaix (2012)による研究以降、再び注目を集めている。従来の標準的な消費CAPMでは、消費成長が対数正規分布に従うことが仮定されていたのに対し、レアディザスターモデルは分布にファットテールを仮定し、従来のモデルが考慮していないテールイベントに着目している点で特徴的である。わずかな確率で生じる負のショックを嫌い、人々は高いプレミアムを求めるのである。
Barro (2006)は、Rietz (1988)の主張が長年懐疑的であると考えられてきた背景には、その主張が支持されるためには大災害の規模や頻度が極端に高くなければならないという信念があると考えた。そこでBarro (2006)は、Rietz (1988)の主張を裏付けるため、20世紀に生じた第1次・第2次世界大戦、世界恐慌などの世界的な大災害のデータを分析し、大災害は1年当たり1.5~2%程度の頻度で生じ、その結果としてGDPが15%~64%低下することを示した。これらの値は、エクイティプレミアムパズルを解決するのに十分であることが明らかにされている。
Barro (2006)のモデルにおける大災害は、時間を通じて一定の確率、規模で生じるため、時間を通じたリスクプレミアムの変動が生じない。Gabaix (2012)は、大災害が生じる確率や規模が時間を通じて変動するタイプのモデルを考え、エクイティプレミアムパズルやリスクフリーレートパズルを含む10のパズルが、レアディザスターモデルにより同時に説明できることを示している。さらに、大災害に対するキャッシュフローの耐性を表すレジリエンスという概念を導入し、レジリエンスが高く安全な金融資産ほど、リスクプレミアムが低いことを導出している。
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参考文献
Barro, R.J. (2006). Rare disasters and asset markets in the twentieth century. The Quarterly Journal of Economics, 121(3), 823-866.
Gabaix, X. (2012). Variable rare disasters: An exactly solved framework for ten puzzles in macro-finance. The Quarterly journal of economics, 127(2), 645-700.
Rietz, T.A. (1988). The equity risk premium a solution. Journal of monetary Economics, 22(1), 117-131.
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