マクロ経済変動のミクロ的な起源

マクロ経済変動のミクロ的な起源

2020/04/28

文責:平岩 拓也

 インフレーションや政策のショックなどのマクロ経済的な要因は、言うまでもなく実体経済の変動に大きな影響を与えているであろう。しかし、多くの実体経済の変動は、これらのマクロ経済的な要因だけでは説明できないことも指摘されている。このような中、近年マクロ経済的な変動がミクロの固有ショックから引き起こされる可能性について、2つの仮説があげられている。

 第1にあげられるのは、大企業の固有ショックがマクロ経済変動を引き起こすとするGranular仮説である。Gabaix (2011) は、現実の経済では大企業及びメガ企業の存在感が大きく、経済における企業規模の分布がファットテールであることを示した。さらに、このような企業分布の場合には、企業の固有ショックに大数の法則が適用できず、大企業の固有ショックの影響がマクロ経済に影響を与えるほど大きくなる可能性があることを示している。すなわち、大企業へのショックはマクロ経済レベルからみても無視できるほどは小さくないことが示唆されている。

 第2にあげられるのは、生産ネットワークの構造の非対称性がマクロ経済変動を引き起こすとするNetwork 仮説である。Acemoglu et al. (2012) は、生産ネットワーク内で供給者として重要なポジションにある企業が存在し、生産ネットワークに非対称性が存在する場合には、固有ショックは完全に相殺されない、あるいは大数の法則の収束速度が低下することが示されている。例えば、ある企業が多くの企業の中心的な供給者となっているスター・ネットワークでは、中心にいる企業の固有ショックは他の企業へも伝播し、ネットワーク全体にも大きな影響を与えることになる。ただし、その場合でも、ネットワーク内に別の供給者を見つけることができる場合には、ショックの伝播が回避できる可能性がある。したがって、供給を少数の企業に一方的に依存する非対称的なネットワークであることが、ショックの相殺を妨げる重要な要因になっている。

 企業規模やネットワークのいずれの視点についても、ある企業が経済において影響力が大きい場合には、固有ショックがマクロ経済にも影響を与えることも考える必要があることを示唆している。

関連キーワード:固有ショック、ファットテール、生産ネットワーク

参考文献

Gabaix, X. (2011). The granular origins of aggregate fluctuations. Econometrica79(3), 733-772.

Acemoglu, D., Carvalho, V. M., Ozdaglar, A., & TahbazSalehi, A. (2012). The network origins of aggregate fluctuations. Econometrica80(5), 1977-2016.

 

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