技術革新のリスクプレミアム
―イノベーションは株価を説明できるか?―
2020/04/28
文責:平岩 拓也
経済成長の原動力として重要な役割を果たすイノベーション(技術革新)は、企業の株価との関係においても注目されることが多い。ここでは、イノベーションが株価のリスクプレミアムに与える影響について考察した近年の研究を紹介する。
Kogan et al.(2019)は、企業の技術革新と資産価格の関係を、企業及び家計の異質性を考慮に入れた一般均衡モデルとして定式化している。このモデルでは、家計部門が企業部門に技術開発のアイデアを供給することが想定されており、以下の3つの特徴を有する。①技術ショックは新たに開発される資本にのみ影響を与える。②技術開発のリスクをシェアできる市場が不完備である。③家計部門は経済全体の総消費と比較した相対的な消費量から効用を得る。特に①と②は、技術開発のリスクを金融市場で完全にシェアすることができないことを意味している。このような環境下においては、既存技術が技術革新により一部の新技術に置換されてしまうという固有リスクが残る。また、技術開発に成功した主体とそうでない主体の間で、所得格差が広がるリスクも高まり、③のように、他人の消費を気にする主体は、より高いリスクに晒される。特に、新規技術の成長機会に恵まれている成長株に比べ、既存技術の比重が大きいバリュー株は、このようなリスクがより大きい。Kogan et al. (2019)は、これらの3つの特徴を考慮に入れることで、エクイティプレミアムパズルやバリュー効果を説明することができると示している。
Kogan et al. (2019)はさらに、Kogan et al.(2017)により開発されたイノベーションの経済的価値の指標を用いて、上記のモデルを推定している。Kogan et al. (2017)の指標は、特許出願の公開日付近の企業の株価の反応をもとに構成されており、その特徴は、特許数の市場評価による加重和である点であり、イノベーションの科学的価値ではなく経済的価値に重点をおいた指標であるといえる。推定されたパラメータの下で、モデルは総消費の変動、ボラティリティパズル、リスクフリーレートパズル、家計の所得格差、右上がりの金利の期間構造、右下がりの配当の期間構造も同時に説明することができることが示されている。ただし、①~③のいずれかの特徴が欠けると、バリュー効果の説明についてはできないとも述べられている。
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参考文献
Kogan, L., Papanikolaou, D., Seru, A., and Stoffman, N. (2017). Technological innovation, resource allocation, and growth. The Quarterly Journal of Economics, 132(2), 665-712.
Kogan, L., Papanikolaou, D., and Stoffman, N. (2019). Left behind: Creative destruction, inequality, and the stock market. Journal of Political Economy, forthcoming.
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