ぜいたくな生活はやめられない:資産価格モデルの成功の秘訣

ぜいたくな生活はやめられない:資産価格モデルの成功の秘訣

2019/01/24

文責:高見澤秀幸

 現在主流となっている資産価格モデルは、次の3つのタイプに分けることができる:①消費習慣を考慮したモデル、②期待消費成長率に不確実性を導入したモデル、③消費成長率の急落を許容したモデル。ここでは、Campbell and Cochrane (CC) (1999) の提案したタイプ①のモデルを紹介するとともに、先行モデルと比べたときの利点を挙げる。

 タイプ①に共通する特徴は、消費者の効用の源を消費水準そのものにではなく、過去の消費水準(消費習慣)から上乗せされた消費分に求めていることである。CCは、この上乗せ消費分を通常の冪効用関数に導入することによって、消費成長率の変動を大きくすることなく、異時点間の限界代替率(ファイナンスの分野では確率的割引率とも呼ばれる)の変動を大きくすることに成功した。CCモデルの確率的割引率は、消費成長率の他に上乗せ消費の変化率にも依存する。この上乗せ消費は、消費水準に比べて大きく変動する(その直感は、上乗せ消費を純利益に、消費水準を売上高に例えれば分かり易いかもしれない)。確率的割引率が大きく変動すると、消費者はよりリスク回避的になり、結果として高い株式リスクプレミアムが実現する。同時に、上乗せ消費の変動モデルに工夫を凝らすことによって、低い安全資産リターンも実現させることができる。このように、CCモデルはエクイティプレミアムやリスクフリーレートのパズルを解消したモデルである。

 他のモデルと比べたときの、CCモデルの特徴は次の通りである:(1)離散時間モデル、(2)外生的な消費習慣、(3)上乗せ消費は差分。(1)の利点は、実データを用いた推定や検定が容易になることである。(2)は、個々の消費者が制御できないところで形成される消費習慣を意味し(例えば社会の風潮や伝統がもたらす消費習慣)、モデルの自由度を高められる利点がある。一方、(3)で上乗せ消費を差分ではなく比(今の消費は過去の習慣の何倍か)で与えると、安全資産リターンが過剰に変動するという問題が生じる。これらを踏まえて、Abel (1990) のモデルは、(1)と(2)はCCモデルと同様であるが、(3)が比になっている。Constantinides (1990) のモデルは、(3)はCCモデルと同様であるが、(1)に連続時間、(2)に内生的な消費習慣を想定しており、実装や拡張の面で課題が残る。このように、CCモデルは先行モデルの問題点を大幅に改善しており、さらなる発展モデルの礎にもなっている。

 

関連キーワード:消費習慣、リスクプレミアム・パズル、リスクフリーレート・パズル

 

参考文献

Abel, A. B. 1990. Asset prices under habit formation and catching up with the Joneses. American Economic Review 80(2), 38-42.

Campbell, J. Y., and Cochrane, J. H. 1999. By force of habit: A consumption-based explanation of aggregate stock Market behavior. Journal of Political Economy 107(2), 205-251.

Constantinides, G. M. 1990. Habit formation: A resolution of the equity premium puzzle. Journal of Political Economy 98(3), 519-545.

 

PDFはこちらから

 ※本原稿の著作権を含む一切の権利は筆者が有します。