中国の債券市場における格付け

中国の債券市場における格付け

2020/04/28

文責:平岩 拓也

 近年、中国の債券市場は急速に拡大しており、世界第3位の規模になっている。一方で、2014年に社債のデフォルトが発生して以来、債券市場における社債のデフォルトが急増しているという実態もある。このような背景の下、急速に成長する中国債券市場の発展に向け、実務的だけでなく、学術的にも大きな関心が向けられている。

 中国の債券市場の特徴の1つとして、欧米とは異なる制度・背景の下で債券の格付けが行われてきたということがあげられる。特に、90%以上の債券がAAAAA+AAの上位3つのカテゴリーに属しており、中国の格付けの質に対する疑念も存在する。Livingston, Poon, and Zhou (2018)は、このような中国の格付けの決定要因やイールドスプレッドとの関係を明らかにしている。彼らによると、他国と同様に格付けは財務指標と関連しており、格付けが低い債券ほどイールドが高いことが示されている。しかし、中国の格付けの各クラスはより幅広い信用リスクを含んでいると考えられ、中国における1つのノッチの違いは、欧米におけるアルファベットの違いと同等のイールドスプレッドの差があることが示されている。また、ビッグ3(Moody’sS&PFitch)と提携している格付機関から格付けを受けた債券は、よりイールドスプレッドが低いことも示されている。さらに、国有企業はよりイールドスプレッドが小さく、政府による救済を背景として、市場からデフォルトがより生じにくいと考えられていることが示唆される。

 このような中国の格付けは、新たな格付機関が今後競争に参入することで、その規律が改められることも期待される。例えば、Hu et al.(2019)は、China Bond Rating Co. Ltd. (CBR)が格付産業に参入したイベントを利用してDifference-in-Differenceによる推定を行っており、既存の中国の格付機関の格付けの規律が変化したか、また、格付けの変化がより情報を伝達するようになったかを識別しようと試みている。CBRの参入前の既存の格付機関のビジネスモデルは発行体支払いモデルのみであり、投資家支払いモデルを採用するCBRが参入することで、既存の格付機関による格付けが参入後に低下していることが明らかにされている。さらに、格付けが変更されることによる株価の変化がCBRの参入後により大きくなることも示されており、CBRの参入により、格付けに含まれる情報が増加したことが示唆されると述べられている。

関連キーワード:格付け、イールドスプレッド、信用リスク、格付機関、発行体支払いモデル、投資家支払いモデル

参考文献

Livingston, M., Poon, W. P., and Zhou, L. (2018). Are Chinese credit ratings relevant? A study of the Chinese bond market and credit rating industry. Journal of Banking & Finance87, 216-232.

Hu, X., Huang, H., Pan, Z., & Shi, J. (2019). Information asymmetry and credit rating: A quasi-natural experiment from China. Journal of Banking & Finance.

 

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