タイミング・プレミアム ―リスクは早く解消したい?

タイミング・プレミアム ―リスクは早く解消したい?

2020/04/28

文責:平岩 拓也

 経済的な意思決定を行う際、人は意思決定に伴う不確実性だけでなく、その不確実性が解消するタイミングを気にすることも考えられる。しかし、意思決定が期待効用理論に基づくと仮定した場合、このような不確実性の解消のタイミングについて、意思決定主体は無差別となることが知られている。Kreps and Porteus (1987)は、このような不確実性の解消のタイミングへの選好を表現できるような再帰的効用関数を提案している。資産価格理論で広く用いられるEpstein-Zin型効用関数もこの効用関数のクラスに属しており、これは、Epstein-Zin型効用関数を用いた経済・資産価格モデルでは、経済主体の不確実性の解消のタイミングへの選好も反映されていることを意味する。

 Epstein-Zin型効用関数を用いたモデルとして、長期リスクモデルがあげられるが、この長期リスクモデルから暗示される不確実性の解消のタイミングへの選好は、妥当なものであろうか。Epstein et al.(2014)は、その妥当性を評価するため、タイミング・プレミアムという概念を提案している。タイミング・プレミアムとは、人が早期に不確実性を解消するために支払っても良いと考えるプレミアムであり、具体的には、将来の消費の不確実性が翌期に全て解消するために、あきらめてもよいと考える各期の消費水準の割合として測定される。タイミング・プレミアムは、消費の確率分布の性質にも依存して決定される。Epstein et al. (2014)によると、標準的な長期リスクモデルで用いられるパラメータの値では、タイミング・プレミアムは25%から30%になるとされている。これは、同じように定義されたリスクプレミアム3分の2から4分の3の割合を占めるとされている。

 彼らの目的は、タイミング・プレミアムに関する内省を通じて、経済モデルで広く用いられるEpstein-Zin型効用関数のパラメータの妥当性を評価する指針を提案することである。したがって、彼らは上記のタイミング・プレミアムが妥当な水準であるかどうかについての最終的な結論は出していないが、長期リスクモデルから暗示されるタイミング・プレミアムは高すぎるのではないかと意見している。

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参考文献

Epstein, L. G., Farhi, E., and Strzalecki, T. (2014). How much would you pay to resolve long-run risk?. American Economic Review104(9), 2680-97.

Kreps, D. M., and Porteus, E. L. (1978). Temporal resolution of uncertainty and dynamic choice theory. Econometrica: Journal of the Econometric Society, 185-200.

 

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