金融仲介機関と資産価格
― 実証編 ―

金融仲介機関と資産価格
― 実証編 ―

2020/04/28

文責:平岩 拓也

 2007年~2009年の金融危機を背景に、金融仲介機関の財務的な健全性が資産価格に与える影響に関心が向けられるようになり、過去10年の研究のトレンドとなっている。理論的には、取引を行う金融仲介機関には様々な資金制約が存在し、その影響が資産価格やリスクプレミアムに反映されることが示されてきた。したがって、実際にこのような制約がリスクの価格として反映されているかどうかが、現在の研究の実証的な問題となっている。

 第1の潮流として、金融仲介機関の負債制約に関する理論の実証分析が行われている。金融仲介機関の負債制約が強くなると、レバレッジを減少させる必要に迫られるため、それに応じて資産のポジションも調整する必要がある。Adrian, Etula, and Muir(2014)(AEM)は、資金循環統計のブローカー・ディーラー部門のレバレッジの増加率をファクターとして伝統的な株価・債券のリターンの実証分析を行い、レバレッジ・ファクターに正のリスクの価格が付されることを示した。さらに、レバレッジ・ファクターだけを用いたモデルは、Fama-French3ファクター・モデル以上の説明力を有していることも明らかにされている。

 これに対し、自己資本制約に関する理論の実証が、もう1つのアプローチになっている。金融仲介機関の自己資本制約が強くなると自己資本比率が低下し、これに応じて資産のポジションを調整する必要がある。He, Kelly, and Manela(2017)(HKM)は、プライマリー・ディーラーのホールディングスの自己資本比率のショックをファクターとして、株式や債券だけでなく、オプションやコモディティ、CDS等の様々な資産のリターンを用いた実証分析を行った。それによれば、自己資本比率ファクターが正のリスクの価格を有しており、高い説明力を持っていることが明らかにされている。また、オプションやCDSのような高度な金融商品のリターンについての説明力が特に高いことから、金融仲介機関が活発な取引を行う市場において、その資産価格への影響が大きいことも述べている。

 AEMHKMの結果から得られるインプリケーションは、明らかに矛盾している。HKMによれば、AEMのレバレッジ・ファクターは個別企業レベルで測定されているのに対し、HKMの自己資本比率ファクターはホールディングスレベルで測定されていることを結果の相違の原因としている。HKMは、ホールディングス内の内部資本市場の役割を指摘し、自己資本制約はホールディングスレベルの自己資本で測定されると述べている。

関連キーワード:金融仲介機関,リスクの価格,内部資本市場

参考文献

Adrian, T., Etula, E., and Muir, T. (2014). Financial intermediaries and the cross-section of asset returns. The Journal of Finance, 69(6), 2557-2596.

He, Z., Kelly, B., and Manela, A. (2017). Intermediary asset pricing: New evidence from many asset classes. Journal of Financial Economics, 126(1), 1-35.

 

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