パズル ~資産価格モデルに突き付けられた課題

パズル ~資産価格モデルに突き付けられた課題

2019/01/24

文責:高見澤秀幸

 世の中のあらゆる製品やサービスは、世に出る前に必ず何らかの品質チェックを受けている。例えば、医療行為というサービスは医師免許を持っている人のみ行うことができるが、その免許がチェックを受けた証である。資産価格の理論モデルでは、品質チェックの項目が「パズル」として提唱されており、パズルを解けることが良いモデルの要件となっている。代表的なパズルを2つ取り上げる。

 

1.エクイティプレミアム・パズル

 Mehra and Prescott (MP) (1985) は、標準的な資産価格モデルが米国データに裏付けられた次の3つの現象を同時に説明できないことをエクイティプレミアム・パズルと呼んだ。その現象は、(1)消費成長率:平均1.8%、標準偏差3.6%、(2)安全資産リターン:インフレ分を考慮した実質で0.8%、(3)株式インデックスのリスクプレミアム:同6.2%。ここで標準的な資産価格モデルとは、代表的消費者が時間分離可能で相対的リスク回避度が一定である効用関数を持つモデルのことである。このとき、現実的なリスク回避度を想定した上で、現象(1)と(2)を所与とすると、モデルは極端に低いリスクプレミアムしか生成できず現象(3)を説明できない。あるいは、現象(1)と(3)を所与とすると、モデルは極端に高い安全資産リターンしか生成できず(2)を説明できない。

 

2.リスクフリーレート・パズル

 Weil (1989) は、MPが用いた効用関数上のある制約を外しても、パズルは解決されないことを示した。その制約とは、異時点間の代替弾力性がリスク回避度の逆数に等しいことである。この制約のない効用関数では、代替弾力性をリスク回避度とは独立に決められるため、より現実的な値にすることができる。しかし皮肉なことに、その自由度がもたらした帰結は、MPのモデルよりもさらに高い安全資産リターンであった。Weilは、この結果をリスクフリーレート・パズルと呼んだ。

 

 このように2つのパズルは、実際に観測される消費成長率や資産市場リターンを統合的に説明することの困難さを物語っている。これらのパズルは、新しい資産価格モデルが提案されるたびに、その説明力をテストする項目として、いまだに利用され続けている。

 

関連キーワード:エクイティプレミアム・パズル、リスクフリーレート・パズル

 

参考文献

Mehra, R., and Prescott, E.C. 1985. The equity premium: A puzzle. Journal of Monetary Economics, 15(2), 145-161.

Weil, P. 1989. The equity premium puzzle and the risk-free rate puzzle. Journal of Monetary Economics, 24(3), 401-421.

 

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