ベータ・アノマリーは存在するか?
2019/01/24
文責:平岩 拓也
近年、スマート・ベータ戦略やファクター投資への注目が高まっており、実務的にも学術的にも、異常リターンの源泉である様々なリスク・ファクターに注目が集められてきたといえる。その中でも、ベータの低い証券へ積極的に投資することで異常リターンを獲得する「Betting-Against-Beta戦略(BAB戦略)」に強い関心が向けられている。
標準的な資本資産価格モデル(CAPM)が成立するのであれば、証券のベータの大きさに比例して期待リターンが決定されなければならない。しかし、実際に観察される証券のベータとリターンの関係は、標準的なCAPMが想定する証券市場線に比べてフラットであることが過去から指摘されている。すなわち、ベータの低い証券が正のアルファを獲得する一方、ベータの低い証券は負のアルファを獲得している。このようなベータとアルファのシステマティックな関係は、ベータ・アノマリーとして知られている。BAB戦略は、この関係を利用して、ベータの低い証券を買って、ベータの高い証券を売ることで、異常リターンを獲得する投資戦略である。Frazzini and Pedersen (2014)は、投資家の借入制約が存在するために証券市場線がフラットになり、BAB戦略が正の異常リターンを獲得することを理論的に示したうえで、実際に様々な証券市場においてBAB戦略が有効に機能することも実証している。
しかし、このような異常リターンが、ベータの時間を通じた変動を適切に反映している可能性についても指摘されている。Cederburg and O’Doherty (2016)は、条件付きCAPMが成立する状況、すなわち、CAPMの関係が各期ごとに変化する状況に着目している。このとき、通時的にベータが不変であるCAPMの関係が成立していると想定して実証を行った場合、ポートフォリオのベータとマーケットの期待リターンやボラティリティにシステマティックな関係が見られると、アルファの推定にバイアスが生じることが指摘されている。一方、ベータが時間を通じて変動する条件付きCAPMが成立していると想定して実証を行った場合には、BAB戦略から得られるアルファが消えることが示されている。この結果は、各期ごとに見ればベータ・アノマリーは存在せず、CAPMの関係が成立している可能性を示唆する。
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参考文献
Cederburg, S., and O’Doherty, M.S. 2016. Does it pay to bet against beta? On the conditional performance of the beta anomaly. The Journal of Finance, 71(2), 737-774.
Frazzini, A., and Pedersen, L.H. 2014. Betting against beta. Journal of Financial Economics, 111(1), 1-25.
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