選好の異質性とリスクプレミアム
2019/01/24
文責:平岩 拓也
資産価格理論やマクロ経済理論においては、経済に1人の消費者や投資家が存在するような代表的個人モデルを構成することが多い。この背景には、消費者や投資家は選好や制約に関して同質的な存在であり、全体を集計すれば、あたかも1人の主体により経済が構成されているかのようにみなすことができるという仮定がある。しかし、実際の経済は異質な経済主体から構成されており、このような代表的個人モデルからは誤った結論が導かれる可能性も否めない。
Dumas (1989)は、資産価格と経済主体のリスク回避度に関する異質性の関係を示した最初の研究であり、選好の異なる経済主体の富の配分が資産価格の変動を特徴付けることを示している。近年では、Garleanu and Panageas (2015)は、投資家のリスク選好を表すリスク回避度と、時間選好を表す異時点間の代替弾力性における異質性を考慮した産価格モデルを構築している。具体的にはEpstein-Zin型の効用関数を連続時間モデルにおいて表現するためDuffie and Epstein (1992)の確率微分効用を用いて、リスク回避度と異時点間の代替弾力性が異なる2タイプの投資家が存在する経済における一般均衡を導いている。
このような選好の異質性を考慮したモデルから得られるインプリケーションは次の通りである。第1に、リスク回避度の異質性が存在する場合には、異なる主体の消費のシェアに応じて、リスクプレミアムが変動する。第2に、証券市場で決定されるリスクの市場価格は、異なる主体のリスク回避度の加重平均に比例するとは限らず、さらには個々の主体のリスク回避度に比してかなり大きな値のリスクの市場価格が形成される。これは、個々の主体のリスク回避度がそれほど大きくない場合でも、代表的個人モデルを用いてリスク回避度を測定した時に現実的でないリスク回避度が得られるエクイティプレミアムパズルを説明できることを示している。第3に、現実的なリスク回避度や異時点間の代替弾力性のパラメータの下では、リスクプレミアムの変動が、主に安全利子率の変動から引き起こされるのではなく、危険資産の価格変動により引き起こされることも示されている。特に、リスク回避度と異時点間の代替弾力性を分離することによって、実際に観測されるような危険資産の大きな価格変動も説明できるとされている。
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参考文献
Duffie, D., and Epstein, L.G. 2013. Stochastic differential utility. Econometrica, 60(2), 353-394.
Dumas, B. 1989. Two-person dynamic equilibrium in the capital market. The Review of Financial Studies, 2(2), 157-188.
Garleanu, N., and Panageas, S. 2015. Young, old, conservative, and bold: The implications of heterogeneity and finite lives for asset pricing. Journal of Political Economy, 123(3), 670-685.
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