債券価格パズル
2022/03/29
文責:鈴木雅貴
資産価格モデルを検証するとき、多くの研究で株式市場に焦点が当てられてきた。特に、Mehra and Prescott(1985)が提唱したエクイティプレミアム・パズルは、現在でもモデルがクリアすべき第一関門とみなされている。しかし、一般均衡モデルとしての資産価格モデルには、株式以外の市場との整合性も求められる。少なくとも、株式と並び代表的な資産である債券に関して、提案されたモデルが一定の説明力を有していることが望ましい。
債券価格は金利と深く関係しているため、債券価格を説明するモデルは、同時に金利を説明していることになる。ここで、債券価格(金利)に関する最も有名なパズルは、Weil(1989)が示したリスクフリーレート・パズルであろう(エクイティプレミアム・パズルおよびリスクフリーレート・パズルの詳細は、2019/01/24の研究ノート「パズル〜資産価格モデルに突き付けられた課題」を参照)。
この他金利に関するパズルとして、Backus et al.(1989)が示した期間プレミアム・パズルが挙げられる。マクロの消費成長率には持続性が存在する。この場合、低成長率が実現した時、標準的なモデルの家計は今後も持続する低成長率に備えて貯蓄しようとするため、金利が低下し債券(特に長期債)価格は上昇する。すなわち、長期債は消費変動に対するヘッジ資産であり、短期債より低い金利でもモデル上の家計は喜んでこれを保有する。このモデル上の含意は、現実に見られる正の長短金利差(期間プレミアム)と矛盾することになる。
社債市場にまで手を伸ばすと、Huang and Huang(2012)の示した信用スプレッド・パズルも、解決が難しいパズルの一つである。これは、低格付け債券と高格付け債券の金利差(信用スプレッド)を、両者の信用リスクの違いだけで説明することができないという内容のものである。定性的に見ると、企業倒産確率が景気逆循環的に推移することを考慮すれば、標準的なモデルの下でも信用スプレッドを上昇させることが可能である。しかし、エクイティプレミアム・パズルと同様、問題となっているのはその定量的な大きさであり、標準的なモデルでは十分な信用スプレッドの水準を作り出すことができないのである。
関連キーワード:エクイティプレミアム・パズル、リスクリーレート・パズル、期間プレミアム・パズル、信用スプレッド・パズル
Backus, D. K., Gregory, A. W., and Zin, S. E. (1989) “Risk premiums in the term structure: Evidence from artificial economies,” Journal of Monetary Economics, 24(3), 371–399.
Huang, J. Z., and Huang, M. (2012) “How much of the corporate-treasury yield spread is due to credit risk?” Review of Asset Pricing Studies, 2(2), 153-202.
Mehra, R., and Prescott, E. C. (1985) “The equity premium: A puzzle,” Journal of Monetary Economics, 15(2), 145–161.
Weil, P. (1989) “The equity premium puzzle and the risk-free rate puzzle,” Journal of Monetary Economics, 24(3), 401–421.
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